第20章 秋祭りのお手伝い
「わかったァ。ほら、取りあえず行けェ!遅刻するぞォ」
一礼している私の肩を軽く叩き、早口で捲し立てられる。気づけば時間はギリギリと言うことに気づいた。
「あ、本当だ。じゃあ、すみません。ここで失礼します。行ってきますね」
「ん。迷惑をかけるなよ」
部屋に戻る私に、実弥さんの声が後ろから聞こえた。
「は~い」
くるりと振り返り、部屋に戻る実弥さんの後ろ姿にそう返事をする。
部屋に入ると、準備していた荷物を持ち、急いで屋敷を後にする。
いつもより早足で甘味屋に向かう。こんな時間に屋敷を出たことはなかったので、朝の澄みきった空気が気持ちいい。
町に入ると、少しずつ祭りの準備が始まっていた。屋台を引いている人もいて、どんな店か気になりつつも、早足で横をすり抜けていく。
「おはようございます。すみません、遅くなりました」
まだ暖簾のかかっていない甘味屋の戸を開き、中に入る。
「おはよう、ノブちゃん。全然遅くないわ。大丈夫よ」
「お、ノブ。済まねえな、急に頼んで。今日はよろしく頼むな」
厨房に入ると、華子さんと華子さんのお父さんが作業の手を止めて挨拶してくれる。
「いえいえ、こちらこそ。お役に立てるか分かりませんけど。がんばりますので、よろしくお願いします」
「大丈夫、大丈夫。そんなに気負わなくていいわよ」
「そうだ。笑ってりゃ、どうにかなる」
初心者なのでその方が気が楽だけど、経営者としてのおじさんの言い様に苦笑する。
「いや、笑ってるだけじゃダメでしょうけど。笑顔だけは忘れずにがんばります。色々教えて下さいね」
「ええ。何か分からないときはすぐに聞いてね」
「はい。あ、斉藤さん、おはようございます。お久しぶりです」
華子さんの後ろの戸から出てきた斉藤さんを見つけ、挨拶をする。裏に甘味の材料を取りに行っていたようで、手には大きな紙袋を抱えていた。
「お、ノブかぁ。おはよう。久しぶりだな。元気そうで何よりだ」