第20章 秋祭りのお手伝い
【実弥side】
「ククッ!必死だなァ」
「だって、実弥さんからのお誘いですし、実弥さんとのお出かけですもん。必死にもなりますって」
「そんなに必死になる程の事じゃねえと思うがなァ」
ほんの少しの時間、一緒に祭りを回ると言っただけだ。飯を食べるついでだ。
俺にとってはそんなに気にすることでもない。
手伝いから急いで帰ってきて飯を作るより、回るついでに食べてしまえば、手間も省ける。それだけだ。
だがノブにとって、そうでもなかったらしい。
「実弥さんにとってはそんなことでも、私にとっては大事ですから。実弥さんとお出かけですよ。初めてじゃないですか?実弥さんとお祭りに行くとか、全然想像してなかったし。だから本当に嬉しいです。よろしくお願いします。本当にありがとうございます」
下から見上げられ、嬉しいと言われれば、悪い気はしない。だが、そこまで長々と言われてしまえば、少しだけ申し訳なさが込み上げる。
「もういい。分かった。何も言わなくていい」
そう言えば、掴まれていた腕から手が離れ、しっかりと頭が下げられる。
先程まで掴まれていた場所は、急に体温を失っていき、少しだけ物足りなさを感じる。いつもと変わらぬ距離に戻ったノブの体温が、少しだけ名残惜しく思えた。
そう自覚した時には、目の前のノブの頭に手を載せていた。
「楽しみなのは分かったから、その前にしっかりと手伝ってこい」
自分の行動を誤魔化すように何とか言葉を捻り出し、ノブの頭を軽く二度程叩く。
「はいッ」
元気よく返事をして破顔した。興奮しているせいか、いつもより少しだけ血色が良く、いつもと違う雰囲気を醸し出すノブに、ドクリと脈が打つ。
まただ。
理解できない感情が一瞬突き抜ける。
訳が分からない。再度ノブを見るが、何も変わらない。
気のせいだったのだろう。
浮き足立つノブの姿を見て、ふと、顔が緩んだ。