第20章 秋祭りのお手伝い
【実弥side】
そう言えば以前、ノブが斉藤が甘味屋の娘の事を好いてると言っていたな、と思い出す。
斉藤はノブが来るまではこの屋敷の事を任せていた。と言っても、俺一人だから多くても月に一度か二度だ。
だから、そんなに関わることはなかった。
だがノブがこの屋敷に来てから、生活できるようにするために斉藤に依頼した。
俺の屋敷の事を知っていて、なおかつ仕事ができる。そして無駄口を叩かねぇ。
斉藤に依頼して正解だった。あいつがしっかり指導してくれたお陰で、ノブはちゃんと一人立ちできた。
ノブとの関わりの中で、俺と斉藤の関係も少し変わった。
あいつは何だかんだ人の事を考える、優しい奴だ。優しい奴から死んでいく。隠だから隊員とは違って、死の危険は少ない。だが全くないわけではない。
鬼とは関わりのない世界で生活できるなら、それがいい。料理上手な斉藤には甘味屋の仕事も合っているだろう。
上手くいっているなら、良かった。
自分の事の様に嬉しそうに笑うノブを見てふと思う。
きっかけを作ったのはノブだった気がする。確か斉藤の休みを甘味屋の娘の手伝いをさせると言っていた。ノブは人の事ばかりだ。祭りも少し位なら一緒に回ってほしいと言っても、斉藤も何も言わないと思うのだが。ノブはそんな風には思わないらしい。
本音はお祭りを回ってみたいだろうに。
そう思うと、ふいに口から出た。
「じゃあ、少し出店を回ってみて、何か食べて帰るかァ。俺が夕方店に行く。俺が一緒に回れば迷子にはならないし、出店で何か食べれば夕飯の事も考えなくていいだろう」
「…実弥さん、本当にいいんですか?」
突然の言葉に、困惑した表情のノブは面白く、やめてもいいと言えば、腕を掴まれて必死な顔で、駄目だと言う。その言葉の揚げ足を取るかののように、やめておこうと言えば、途中で言葉を遮られた。
「違います、違います!一緒に行きたいです。実弥さんとお祭り、行きたいです。お願いします」
腕を掴んだまま、真っ直ぐに見上げて必死に訴える姿に笑いが込み上げる。