第20章 秋祭りのお手伝い
【実弥side】
「実弥さん、今度お祭りに行ってきてもいいですか?」
突然ノブが言ってきた。もう今年も秋祭りの季節か。
聞けばいつも行く甘味屋の手伝いを頼まれたようだ。勝手に行けばいいのに、律儀に確認してくる。そして、その日食事の心配だ。
前にも言ったと思うんだが、絶対に用意しないといけない訳ではない。ここに住む以上は屋敷のことはしてもらうが、使用人じゃねえ。他に用事ができればそれを優先させていい。
そもそも、ノブが私用で出るのは今までも数えるだけだ。
「その日は作らなくていい。夜はいつも通り出るが…一日くらいどうにでもなる。取りあえず、日が落ちる前に帰って来ればいい。祭りの日は鬼が出るからなァ」
そう言えば、ノブは顔を綻ばせて、礼を言ってきた。礼を言われる事でもないと思うんだが…そんな事を考えていれば、祭りの事を尋ねられる。ノブが何となくとしか記憶がない、と言われて、やっと思い出した。
ノブは記憶がなかった。いや、四十の記憶しかないと言っていたな。
ここでの生活にも馴染んでいたから、すっかり忘れていた。
「都会程ではないが、ここの秋祭りは結構出店も出るし、朝から夜まで一日騒いでるぞォ。知らないのなら、手伝いの合間に見てくればいい」
どうせ手伝いに行くんだ。祭りを見れば、また何か思い出すこともあるかもしれない。そう思い声をかけたが、思ってもみない返事が返ってきた。
「見に行きたいなぁとは思ってるんですけど、お屋敷とお店の往復だけで楽しみます。多分迷子になるんで」
ヘラヘラと笑いながら言う姿と、答えた内容に苛立ちを覚える。
「ハァ?いつも行く所じゃねえかァ」
何で迷子になる?全く理解できない。
「いや、出店とか出て雰囲気が違うし、私、気になるお店に向かって行って、間違いなく回りを確認しないで知らない場所まで行ってしまいそうですから」
少しだけ困ったように笑いながら、ノブは説明する。
どことなく地に足が着いていないノブが、祭りの中を歩けば人の流れに流されたり、フラフラと入り込む姿が想像でき、納得した。
だがそれを自分で理解しているなら、店の奴と回ればいいと思ったが、店の娘と斉藤は恋仲のようだ。