第20章 秋祭りのお手伝い
「じゃあ、少し出店を回ってみて、何か食べて帰るかァ」
「えっ?」
突然の提案に、理解が追い付かない。
「俺が夕方店に行く。俺が一緒に回れば迷子にはならないし、出店で何か食べれば夕飯の事も考えなくていいだろう」
「…実弥さん、本当にいいんですか?」
夢のような誘いに眩暈がする。だけど、迷惑じゃないだろうかとも思ってしまう。
「お前が嫌なら、やめてもいいんだがァ」
ニヤニヤとしながら、ゆっくりと私に背を向けようとしていく。からかわれているのは分かるが、その姿を見て、慌てて実弥さんの腕を掴む。
「だ、だめです」
「駄目なんだなァ。じゃあやめておこ…」
違うように受け取られてしまった。早く訂正しなければと、実弥さんが話している途中で、言葉を発する。
「違います、違います!一緒に行きたいです。実弥さんとお祭り、行きたいです。お願いします」
腕を掴んだまま、実弥さんの顔を真っ直ぐに見上げて、でも早口で伝えた。
そんな私の姿を見て実弥さんは笑う。
「ククッ!必死だなァ」
「だって、実弥さんからのお誘いですし、実弥さんとのお出かけですもん。必死にもなりますって」
お出かけとしては、初めてじゃないだろうか。必死に訴えて、実弥さんと一緒にいられるなら、何度だってやる。
「そんなに必死になる程の事じゃねえと思うがなァ」
実弥さんは困惑した表情だが、私にとっては大事なのだ。
「実弥さんにとってはそんなことでも、私にとっては大事ですから。実弥さんとお出かけですよ。初めてじゃないですか?実弥さんとお祭りに行くとか、全然想像してなかったし。だから本当に嬉しいです。よろしくお願いします。本当にありがとうございます」
「もういい。分かった。何も言わなくていい」
あまりの嬉しさにひたすら喋ってしまい、呆れられたようだ。いつもの呆れ顔で、見下ろされる。
「嬉しくて、柄にもなくはしゃいでしまいました。すみません」
掴んでいた手を離し、しっかりと頭を下げる。
「楽しみなのは分かったから、その前にしっかりと手伝ってこい」
そう言って、私の頭をポンポンと何度か大きな手が乗せられる。
「はいッ」
顔をあげれば、思いの外優しげな表情をした実弥さんが目に入る。迷惑ではないのだろう。そんな顔が見れたことも相まって、私の顔は緩みっぱなしだった。