第20章 秋祭りのお手伝い
「何となく、としか記憶がなくて」
お祭りの記憶はあるが、現代だ。大正時代のお祭りは知らない。
「都会程ではないが、ここの秋祭りは結構出店も出るし、朝から夜まで一日騒いでるぞォ。まぁ、そのせいで、俺は毎年秋祭りの夜は周辺の見回りだがなァ」
「そうなんですね~」
現代よりも娯楽がない時代だ。大正時代も昔に比べれば随分と娯楽も増えているが、その中心はまだ都会だ。
この屋敷の周辺も栄えてはいるが、隣町にも及ばない。
「知らないのなら、手伝いの合間に見てくればいい」
こういう事をさらっと言えるのは、やっぱり優しいのだからこそと思う。せっかくの申し出だ。そうしたいのは山々なんだけど、如何せん私は方向音痴だ。
「見に行きたいなぁとは思ってるんですけど、お屋敷とお店の往復だけで楽しみます。多分迷子になるんで」
「ハァ?いつも行く所じゃねえかァ」
怪訝そうな顔になる。
方向音痴ではない人は迷子にはならないから、信じられないのだろう。私は慣れた場所でも雰囲気が違うともうダメだ。
「いや、出店とか出て雰囲気が違うし、私、気になるお店に向かって行って、間違いなく回りを確認しないで知らない場所まで行ってしまいそうですから」
「あぁ、あり得そうだ」
納得したようだが、ニヤリと笑われたので、間違いなく馬鹿にされていると思う。だけど、事実だから仕方ない。
「ですよね~。人も多いのに迷子になったら、絶対夜までにお屋敷に帰れませんって」
「店の奴と回ればいいじゃねえか」
一人がダメなら誰かと。それも考えたのだけど…
「華子さんでしょ?でも華子さんには斉藤さんと回って貰わないと。私、馬に蹴られて死にたくないですから」
「斉藤も来るのかァ?」
馴染みの名前に、実弥さんも驚いている。
「斉藤さんは元々お手伝いする予定だったみたいですよ。華子さんとはなかなかいい雰囲気のようで、何よりです」
二人の初々しい姿を思い浮かべ、ニンマリと笑う。
「斉藤がなァ。まぁ、それなら無理は言えねえなァ」
遠くを眺めながら優しげな表情をする実弥さんも、二人の姿を思い浮かべているのだろう。
「そうなんです。私も帰り道にお店を見れればいいかな、って。雰囲気だけで楽しそうですから」
ちょっと残念な気もするけど、雰囲気だけ楽しめればそれで十分だ。