第22章 兄と弟
実弥さんから信用してもらえない?
それは最初からだ。
どこからか来たかも分からない、記憶もない。こんなおかしな奴を、信用できるわけがない。
本当によく拾ってくれたもんだと、今更ながらに思う。優しすぎて、大丈夫かと疑ってしまう位に。
「フフッ」
普段口数は少なめなのに、口を開けば言葉は荒くて吐き捨てるように言う事も多くて。顔を見れば、いつも不機嫌なのかと勘違いする程、眉間に皺を寄せて睨んでくる。思った事はすぐに口に出すし、なんなら口に出す前に動いてしまうし。
だけども、本当は何だかんだで優しくて。おはぎと甘い卵焼きが大好きで。うまいうまいって、言いながら食べたりして。寝ている姿はとっても可愛らしくて。眉間の皺も寄ってなくって。意外と押しに弱い部分もあって。色々と致してしまった時の姿はとっても欲情的で。すごく唆られる顔をしていて。でも、普段はすぐに拗ねたように顔を背けたり。意地悪そうにニヤリと笑ったり。
そんな実弥さんのたくさんの姿が、頭の中に思い浮かぶ。
たった何ヶ月間で、本の中では知らない実弥さんをたくさん見れた。たくさんの思い出ができた。
私のおばちゃんパワーはどうした?
知らぬ存ぜぬで、突き進んでいけばいい。私が傷つくのを恐れてはいけない。私が傷ついたとしても、二人が傷つかなければそれでいい。私が引き受けて、二人が少しでも分かり合えれば、それでいい。
二人の姿を見れば、たとえ傷ついたとしても、すぐに治るから。
風車を手に取り、ふうっと息を吹きかける。その風を受け止めて、風車はカラカラと音を立てて回る。
明日からまたがんばろう。やることはまた明日以降に考えればいい。
とりあえずは、睡眠だ。寝れば、嫌なことは忘れられる。それに、疲れも取れるし、頭もスッキリして新しい考えも出てくるだろう。
風車を置き、布団に入る。
いつもと違う枕だ。天井も違う。
でも生きている。
ここに私はいる。
明日も明後日も、この世界で生きていく。
生きていかなければならない。
「お前は本当に阿呆だなァ」
目を閉じれば、ニヤリと笑った実弥さんがそう言った。
大丈夫。私は大丈夫だ。
いいようになる。
おまじないのようにそう唱えていれば、すぐに深い闇の中に意識は落ちていった。