第19章 恋柱と蛇柱
【実弥side】
爽籟に帰る事を伝えるよう指示する。今から処理をしても夕方までならないだろう。
…早く帰って飯が食いたい。
ふとその思いが頭を過ったが、すぐに隊員と隠に指示を飛ばし、後処理へと頭は切り替わる。
それもそんなに時間はかからずに終わった。後は隠に任せるだけになった所で、帰路に着く。
それにしても腹が減った。
朝から、いや昨日の夜か口に入れたのは、水だけだったことに今頃気づく。
そんなことを考えながら走れば、行く時よりも短い時間だった。
いつも通り、玄関を開けて屋敷の中に入る。腰掛けて足袋を脱ぐ。いつもであればバタバタと音を立てて、すぐにやってくる奴が来ない。
部屋に戻る途中で、ノブの部屋や台所を覗いたが、がらんとしているだけだった。
少ない荷物を部屋に置き、一度耳を澄ませる。屋敷の中からは全く音がしない。あまりの静けさに自分の屋敷ではないようだ。
…消えた?
そんな、まさかな。買い物にでも行っているだけだろう。
自分が否定したのに、そう考えてしまったのは、ノブの影響かもしれねェ。
元々突然現れたんだから、突然いなくなるのもあり得ない事ではない。
「そんな馬鹿げた事があるかァ」
爽籟に伝言をしたんだ。異常があれば、すぐに知らせるだろう。昼間は鬼は活動しない。
いつも通り、買い物に出ているだけだァ。
そう結論付けて、厠に向かう。
自分が動けば音がする。言い換えれば、自分の音しかしない。
屋敷はこんなに静かだったのか。それにこんなにも寒々としていただろうか。
つい何ヵ月前まではこれが当たり前だった筈だ。
部屋に戻り、いつもの定位置に座るが、どうにも静かすぎて落ち着かねェ。
「クソッ」
何なんだ。ノブがいないだけで、調子が狂う。
左手で頭を二、三度ガシガシと搔く。
ガラガラと扉が開く音がし、気の向けた声が響く。
「ただいま戻りました~」
勝手に体が声のする方へ向かう。
声の持ち主は籠を持ち、扉を閉めていた。俺が帰ってきている事には気づいてないのか。
「今日は何を買ってきたんだァ?」
後ろ姿に声をかける。