第19章 恋柱と蛇柱
【実弥side】
久々に遠くまで来た。
ノブが来てからは二度目か。前回は斉藤がいたからあまり心配なんかはしてなかったが。
今回は違う。
生活自体は全く問題はない。何だかんだで、屋敷のことは一人でやっている。突拍子もないことはするが、無茶なことはしない。年頃の娘だと言うのに行動が落ち着いていたりちぐはくなのは、四十の記憶があるからなのか。
まぁ、色々考えることはあるが、普段生活する分には十分一人でやっていけるだろう。
それよりも、気持ちの面だ。ノブは隠しているつもりなんだろうが、案外顔に出やすい。不安なんだろう。笑っているし、普段通りに送り出そうとしているが、いつもと違う。
少しつついてみれば、案の定不安を吐露する。
だが内容が、少し変わっている。
記憶がないせいなのだろう。
夢から覚めるなんて、考えもしない。それこそ鬼に喰われてしまえば、消えてしまうことはあるだろう。神隠しに合うことも確率としてないに等しい。
どちらかと言えば、無惨に見つかる可能性の方が高いのでは、と思うが。
こいつは、そうは思わないらしい。
記憶が戻ったとしても、俺が戻ってくるまでここにいればいい。
そんなことを思ったが、口には出さない。
ノブも不安を吐露したことで納得したのか、目に見えていた不安そうな様子はなくなった。それでも少しは不安はあるのだろう。
俺の事を考えて過ごす…
そんなことを言われるなんて、思ってもいなかった。
やっぱり変な奴だ。
だが、嫌ではない。それを聞いて、悪い気はしなかった。
何でそんな風に思ったのか、信じられなかった。だが、俺に迷惑がかからない限り問題はないと思い、深くは考えなかった。
出発後、爽籟に甘露寺に伝言を頼んだ。
無惨に見つかったり何かあっては困るからだ。
甘露寺ならすぐにでも駆けつけるだろう。何かあれば甘露寺も柱の一人だ。対処できる。
それに二人で話しでもすれば、ノブも気持ちが落ち着くだろう。
そんなことを考えていれば、目的の場所にはすぐに着いた。当初の予想通りで、場所が遠いだけで、鬼自体は下弦にもかすりもしなかった。ただ、なかなか姿を見せず、時間がかかってしまったのは事実だ。
ノブには、余裕をもって伝えていたので、許容範囲内だったが。