第19章 恋柱と蛇柱
「何だかよくわかんねェが、いいんじゃねえかァ。俺も飯は必要だしなァ」
「そうですよ。実弥さん、一人の時ってちゃんとご飯作ってました?」
「作れるが、まぁ、腹を満たすだけだなァ」
若干遠くを眺めながら呟く実弥さんを見て、何となく想像はできる。
「んじゃ実弥さんにとっても、重要ですね。体が資本のお仕事ですから。私がいる意味が少しでもありますね。良かったぁ」
「肯定したくねえなァ。かと言って、否定もできねえし」
すぐに『うん』とは言わない。けど、否定しないと言うことは、そう言うことだ。
実弥さんも私がいる意味があると思ってくれているのだ。それが分かって、心の中が温かくなって、ギュッと締め付けられる。
「あー良かったです。ここに存在していい理由が分かったので、これからもこの世界で生きていけます。よろしくお願いしますね、実弥さん」
改めて自分がこの世界でできること、存在する意味が明確になったのだ。実弥さんも認めてくれている上でだ。
「大袈裟だなァ。まぁ、いいんじゃねえか」
実弥さんにとっては大袈裟に聞こえるだろうけど、ここは私のいた世界とは全く違うのだ。
だからこそここでの存在意義が分かるだけで、ここの世界にしっかりと足を着けて立てたような気がする。
フワフワと風船のようだった私の存在が、よりしっかりと地に足を着けた『私』になった気がする。
「だって、私の存在って不安定なんですから」
にっこりと笑いながらそう伝える。
「…取りあえず、俺が叩き出すまではァ、ここにいていい」
少しだけ睨まれたけど、すぐに顔を逸らし、呟くように言ってくれる。私が何かやらかさない限りはここにいていいということだ。
思い当たるのは玄弥くんとの事だけど、それ以外は大丈夫だろう。
「ありがとうございます。叩き出されないように、気を付けます」
「精々頑張るんだなァ」
「はい」
胸の中が温かく、その気持ちのままふわりと返事をした。