第19章 恋柱と蛇柱
「えっ?実弥さん?もうお戻りだったんですか?」
急いで机に荷物を置き、実弥さんの側に歩み寄る。
「あぁ、思ったよりも早く帰り着いた。だけど、屋敷に戻ったらお前がいなかったから、消えたかと思った」
嘲笑うかのような表情から、一転優しく笑う。その表情の変わりように気になったけど、それよりも、消えたというワードに反応してしまう。
「そんな訳ないじゃないですか!実弥さんが言ってたじゃないですか。忘れたんですか?」
いくらいなかったとは言え、消えたと少しでも思われていたのは、辛い。ちゃんとここにまだいるのだ。
「…そうだったなァ。屋敷に戻ったらあまりにも静か過ぎて、流石に驚いてなァ。お前がどれだけいつも煩いか、よーく分かったんだけどなァ」
少しだけ驚いた表情は、すぐにいつもの意地悪い笑いに変わる。
「ん?えっ?私、そんなに煩いですかね?」
「自覚なしかァ?煩いぞォ。一人でも煩いだろうが。独り言も多いしなァ」
「独り言は自覚してます。でもそんなに煩いとは思わないんですけどね」
独り言が多いのは、昔からだ。だけど、そんなに大声では言っていないと思うのだけど。でも、自分が把握している自分と、他者から見た自分には違いがある。
だからそうと言われればそうなのかもしれない。
「気づいてないだけだろォ」
「そうですかねぇ?」
そう言われれば、納得するしかない。第三者的目線で自分は見れないからだ。
煩いは、言い換えれば賑やかだとも言う。その賑やかさが実弥さんにとって、少しでも心地よいものであればいい。
「まぁいいです。実弥さんも一人で寂しくて暗い家より、賑やかな方がいいんじゃないですか?私がいたら毎日賑やかでしょ。それよりも、お風呂はどうされますか?あと夕食も」
返事はきかない。実弥さんのことだから、嫌なら言葉にでも態度にでも、すぐに出る筈だから。嫌味を言うくらいだから、そこまで嫌ではないのだと、思い込む。
それよりも、私は今日の予定の方が気になって仕方なかった。お風呂も食事も何も準備できていないのだから。