第19章 恋柱と蛇柱
さっきまでの喧騒が嘘のように、静まり返っている。外で鳴く虫の声や遠くで聞こえる人の声がたまに聞こえるが、自分が動いた時の布ずれの音くらいだ。
「こんなに静かだったんだなぁ」
声が部屋に沈んで消えていく。
ささくれ立っていた心が、どんどん丸くなっていく。
「はぁ。本当に大人げなかったよなぁ」
ボソリと呟く。
伊黒さんという人物を知っている筈なのに、伊黒さんの口撃に翻弄されてしまった。
私は40年という年は重ねているけど、人生経験からしたら、この時代の人達の方が濃いだろう。この鬼殺隊に関わる人達は、特にだ。現代では全く経験することがないことを、たくさん経験しているのだから、私なんかより経験値は高い。
だから、ちょっとした言い方でひねくれて受け取って、こんなにも心がささくれ立ってしまう。
義勇さんの凪のような心が持てればいいのに、と思ってしまう。
「仕方ないかな」
ポツリと洩れる。
こればかりは今すぐどうしようもない。
でもこの時代へ来たのだ。少しは私も成長したい。
…がんばろう。
そう心で呟く。
周りを見ればもう日が随分と傾きかけている。物思いに耽るのは、一日の仕事が全部終わってからだ。
現代と違って、夜までの時間は限られている。
客間を片付け、足早に台所に向かったのだった。