第19章 恋柱と蛇柱
恋は盲目とはよく言うけど、ここまでの人には会ったことがない。伊黒さんの背景は本の中で知っているから、見守ってあげたいとは思うんだけど…
あまりにも周りへの、いや私への態度が酷すぎて、もうさっさとくっついてもらえないかな、って思ってしまう。
心がささくれ立つ。
分かっているのに、そんな態度を取られて、投げやりな気持ちになってしまう私は、何て心が狭くて嫌な奴なのだろう。
もう若くないのだから、もう少し寛容になってるかと思ってたけど、そうではなかったようだ。
ごめんね、伊黒さん、蜜璃ちゃん。
「はぁ。すいません。取りあえず、お二人とも今日はわざわざ来ていただき、ありがとうございました。伊黒さんとはもう会うことはないでしょう。蜜璃ちゃん、またね」
面と向かってしっかりと謝ることもできなくて、濁してしまった。
だけど、来てくれたお礼はちゃんと伝える。
もう少し大人な対応ができればいいのだろうけど。一度波打った心は、すぐには戻せない。
「うん。ノブちゃん、またね」
「では失礼する。三井、お前とはもう会うことはないだろうがな」
「……さようなら、伊黒さん。二人とも本当にありがとうございました」
言いたいことを何とか飲み込み、しっかりと頭を下げてお礼を伝えれば、伊黒さんはさっさと背を向け帰っていく。
それとは反対的に、蜜璃ちゃんはごめんね、またね、と何度も振り返りながら、帰っていった。
私はその全く違う二人の姿が見えなくなったところで、屋敷に戻る。