第19章 恋柱と蛇柱
「大雑把とは言え、ただ結ぶだけだろう。何故こんなに不細工になるんだ?よく、お前は、俺に結ぶだけと言えたものだなぁ」
獲物を見つけた蛇のように、狙いを定められている気がする。蜜璃ちゃんとは違って、私は間違いなく嫌な奴だろう。
私も伊黒さんからよく思われようとは思わない。伊黒さんの背景を考えると、私が伊黒さんの気持ちを軽くしたり、安らぎを与えられるような存在になれるとは思わない。それに、なろうとも思わない。
だって、伊黒さんには、蜜璃ちゃんがいる。
そうだ。
伊黒さんには蜜璃ちゃんがいる。
蜜璃ちゃんには伊黒さんがいる。
そうは頭では分かっていても、苛つくのはどうにもできなかった。
「そうですね。すみません。そうだ!私は不器用なので、これから、蜜璃ちゃんのリボンは伊黒さんが結んであげてくださいねッ!」
あーあ。言ってしまった。
伊黒さんだけでなく、蜜璃ちゃんまで、顔を真っ赤にして固まってしまった。
四十のおばちゃんだけど、苛つくものは苛つく。
そして、黙っていられなくなったのも、年齢を重ねて増えたなぁと思う。
まぁ、反対に聞き流すことも増えてるんだけど。
だけど、今回のことは、我ながら大人げなかったと、思う。
伊黒さんは嫌々だけど、本当にっ嫌々だろうけど、ここに来てくれた。蜜璃ちゃんと一緒だから、だろうけど。
でも、本当に嫌であれば、例え蜜璃ちゃんがいたとしても、絶対に来ないだろうし、関わろうとしない人だ。
実弥さんの嫁、ってことで、興味もあったのかもしれない。実弥さんとは仲が良い筈だ。
何だかんだで蜜璃ちゃんや実弥さんに対しては、伊黒さんの気持ちは和らいでいるのだろうと思う。基本ネチネチだろうけど。
現代に比べて、圧倒的に便利ではない時代で、ましてや鬼なんている世界だ。鬼に人生を狂わされ、鬼を倒すために生きている人が、ここにはたくさんいる。
腐ることなく、前を向いている。
多くの人に知られる事はなく、黙々と。
自分の子供でもいい年齢の人達が、だ。
だからこそ、少しでも普通の若者の楽しみも、日常生活にあればと、心から思う。
ただのお節介なのだろうけど、この後の話の展開を知っているからこそ、だ。
実弥さんだけでなく、鬼に関わる人達が、少しでも年齢並みの経験を楽しむことは、誰にも咎められることはないだろう。