第19章 恋柱と蛇柱
そこからは早かった。
器用な人なのだろう。ものの数秒でキレイにリボンを結んでいた。
私が結んだ方より断然キレイだ。
「…伊黒さん、ありがとう」
真っ赤な顔で、でもにっこりと笑って、蜜璃ちゃんはお礼を言う。
「…いや……似合っている…」
何とか絞り出したような声は、蜜璃ちゃんにしっかりと届いたのだろう。
「伊黒さんッ!嬉しいッ!」
先程の笑顔も良かったけど、また更に可愛らしくなった笑顔は、本当に蕩けるようだ。
「あ、いや……甘露寺が喜んでくれたなら、いい」
何とか絞り出した声は、本当に消えそうな程だった。
そう言い終わると、少しだけ顔を反らした。さっきまで後頭部しか見えなかった伊黒さんは、耳まで真っ赤になっていた。
何だかこっちまで、ドキドキが移ってしまう。
この甘酸っぱい感じは、久しぶりの感覚だ。でも、いい。
蜜璃ちゃんを見れば、今まで見た中でも一番の笑顔だった。伊黒さんに無理を言ってしまったけど、この笑顔のためだったと思えば、無理を言っても良かったなと思えた。
「伊黒さん、リボンを結ぶのお上手ですね」
伊黒さんへ感謝の気持ちはあるのだが、それを言うと何だかこの場がぶち壊しになってしまいそうだから、全く違う話題を振ってみた。
「そんなことはない。ただ結べばいいだけだ。ただ結べばいいだけなのに、三井、お前のはどうだ。何故こんな結び方になるんだ?左右の大きさは違うし、まずもって最初の結んだ状態から汚いではないか。だいたい人に言う前に、自分はどうだと…」
固まっていたのが嘘のように、怒涛のネチネチタイムに突入してしまった。最初は大人しく聞いていたものの、終わる気配がないと気付いた時にはもう声をあげてしまっていた。
「はい、すみません、すみませんッ!仰る通りです!私、結ぶの苦手なんですよ。だけど、不器用ってよりは、大雑把なんです」
話を遮り、大雑把だと、大声で言う。端から見れば何を言い出すんだ状態だが、気にしない。