第19章 恋柱と蛇柱
「はい。じゃ、伊黒さん。一つお願いしま~す」
そう言いながら、手に持っていたリボンをひとつ伊黒さんに渡す。
「なッ?!おい、三井ッ!」
突然の私の行動に、呆気に取られていたのか、聞いていなかったのか。抵抗することなく、リボンを受け取った。
だが、受け取った後で気づいたのだろう。
いつも冷静そうな伊黒さんの、慌てた姿が新鮮だ。
「私が先にしますからね」
蜜璃ちゃんのそばに行き、向かって右側の三編みの編み終わりに、キュッとリボンを結ぶ。
細目で短いリボンだけど、普段使う分にはこれくらいがいい筈だ。
「はい。どう?蜜璃ちゃん?」
「可愛すぎよ。本当にすごいわ!これなら気分次第でつけれるわ~。すごく嬉しい」
「良かったわ。これなら、今日みたいなお出掛けの時に少しだけお洒落できるでしょ?使ってくれると嬉しいわ」
「勿論!今日も夜まではこのままつけておくわ」
「それなら、もう一つの方もつけなきゃね。じゃ、伊黒さんお願いしますね」
そう言い、振り向く。
「なっ、何故俺なんだ?三井がすればいいだろ」
先程抵抗なく受け取ったリボンを私に突き出しながら、私を睨み付ける。
「ノブちゃん、伊黒さんもそう言ってることだし…」
そんな風に伊黒さんから言われれば、蜜璃ちゃんが遠慮するのは分かる。
ほんのり紅くなった頬で、眉はいつも以上に下がり、申し訳なさそうだ。心なしか声も少し元気がない。
もしかしたら傷ついたかもしれない。
「伊黒さん、蜜璃ちゃんにあんな顔をさせていいんですか?」
自分が恥ずかしいからと言って断って、そして蜜璃ちゃんの事を傷つけていることに、気づいていないのだろうか。
そんな伊黒さんに苛つき、少しだけトゲのある言い方になってしまう。
原因を作ったのは自分だけど、それは棚に上げてだ。
だって、蜜璃ちゃんにも伊黒さんにも、いい思い出を作って欲しいのだ。