第19章 恋柱と蛇柱
「伊黒さんは、おはぎは?」
「いらん」
相変わらずそっけない。
「じゃ、伊黒さんの分は蜜璃ちゃん、食べてね」
「え?いいの?」
「うん。伊黒さん、いいでしょ?」
「ああ」
「蜜璃ちゃんに食べてもらうと、おはぎも喜んでくれるよ」
「なにそれ?」
驚いたような顔をしつつも、笑っている。そうだよなぁ、変なこと言ってるのはわかる。
「それだけ、美味しそうに食べてくれるってこと!」
この一言に尽きる。
「じゃあ、遠慮なく頂くわ。ありがとう、伊黒さん」
蜜璃ちゃんが伊黒さんの方を見てお礼を言う。
「甘露寺が食べてくれるなら…」
柔らかい口調だけども、恥ずかしさもあるのか、伊黒さんは顔を背けながら答えていた。そんな伊黒さんの様子を知ってか知らずか、蜜璃ちゃんは満面の笑みだ。
そんな二人の様子に自分の顔が綻ぶのが分かる。
その後もおはぎを食べながら、蜜璃ちゃんと他愛もないことを話して、お互いに笑う。
伊黒さんは会話に混ざることはなく、若干呆れながらも、優しく蜜璃ちゃんを見つめている。その視線が時々私にも向けられるが、何故か物凄く冷たく、そして鋭く突き刺さる。
蜜璃ちゃんに向ける気持ちのほんの一ミリでもいいから、優しさを足して欲しいと心の中で苦笑し、伊黒さんの視線は受け流していく。
手元のおはぎを食べ終わり、一頻り笑った所で、ふとリボンの事を思い出す。
「そうだ、そうだ!蜜璃ちゃん、これ。新しく作ったの」
そう言いながら、前回作った物より少し小さめのリボンを取り出す。
「とっても可愛い~」
「前のは大きくて、お休みの時しかつけれないかなぁと思って。今回のは今の髪型でもつけれたらなぁと。今日みたいに、合間の時に少しつけて、仕事の時はすぐ外せるでしょ?」
「えー!すごい!すごいわ!ノブちゃん」
「せっかくだから、つけてみる?」
「うん」
「わかった」
そう言うと、私はおもむろに立ち上がり、伊黒さんの隣に座る。