第19章 恋柱と蛇柱
「何が嫁でいいだ。嫁だろう。嫁以外、何があるんだ。だいたい、お前みたいな奴がなぜ甘露寺と友達なんだ。全く意味がわからない。相席もだ」
なんなの?認めたら認めたで、それも嫌なの?蜜璃ちゃんと友達なのは本当の事なのに、それまで否定してくるなんて。私の事だけなら我慢できたのに。段々と腹が立ってきた。
「はいはい。分かりました。でも、蜜璃ちゃんが友達だと言ってくれてるので、そこは認めてくださいね、伊黒さん。そんなこと言われたら、蜜璃ちゃんが悲しんじゃいますよ。蜜璃ちゃんが私の事、友達って言ってくれたんですから。
ねー、蜜璃ちゃん。ほら、蜜璃ちゃんが微妙な顔しちゃってますよ、伊黒さん。この話はこれで終わりですよ。さ、蜜璃ちゃん。ほら、ここ。座って」
捲し立てるように一気に吐き出す。吐き出した後は、伊黒さんににっこりと笑いかける。営業スマイル全開だ。
私の事は気に入らないかもしれないけど、だからと言ってそんなに言われる筋合いはない。それに自分の話していることが蜜璃ちゃんの事も傷つけていることを気づいて欲しい。
頭の良い彼ならば、気づいただろう。蜜璃ちゃんを見つめる顔が、落ち込んでいる。
伊黒さんには自分で立ち直ってもらうしかない。
私は蜜璃ちゃんの腕を掴み、隣の席に誘導し座らせる。
「ごめんね、ノブちゃん。私、何も言えなくて」
伊黒さんから追い詰められていたのは私の方なのに、なぜか蜜璃ちゃんの方が伊黒さんから攻撃を受けたように沈んでしまっている。
それを見て、もう何も言わなかった。いや、言えなかったのかもしれない。
渋々だろうが、私達の向かいの席に伊黒さんも座った。
「改めまして。伊黒さん、蜜璃ちゃんから色々とお話しを伺ってましたので、お会いできて嬉しいです。気に入らないことは多々あるとは思いますが、二人きりではないのですから、よろしくお願いしますね。さぁ、蜜璃ちゃんも。切り替えて甘いもの食べよ」
「そ、そうね。私、たくさん頼んでたわ」
「紅葉の練り切り、美味しかったよ」
「そうなの。早く食べたいわ」
暗かった蜜璃ちゃんの表情が一気に明るくなる。