第19章 恋柱と蛇柱
「私は相席したいんですけど、お邪魔かしら?」
二人に向かって、そう声をかけると、二人とも振り返る。伊黒さんは怪訝そうな顔で、蜜璃ちゃんは驚いた顔で。
「えっ?あっ!ノブちゃんじゃない。もう。気づいてたなら声をかけてよ」
可愛らしく頬を膨らましながら、私の元へ駆け寄ってくる。
「だって、二人のいい雰囲気に水を差したくないじゃない」
「もう。見られてたのね。何だか恥ずかしいわぁ」
「立ち話もなんだし、座って。違うか。相席でもいい?まだおはぎが残ってるから、食べ終わるのにもう少しかかっちゃうのよ」
「もちろんよ。伊黒さんもいいでしょ?」
「…甘露寺が良いと言うなら良いだろう」
全く伊黒さんは蜜璃ちゃんしか見えていないのだと実感する。少しだけ悲しくなるけど、社交的な伊黒さんだったら、それはそれで微妙なので、これに慣れるしかないだろう。
元々知っているし、蜜璃ちゃんの話によく出てくるから、初対面の気がしないのだけど。
「ではどうぞ。初めまして、伊黒さん。私、三井ノブと申します。今は実弥さんのお屋敷でお世話になってます」
一度立ち上がり挨拶をする。
「ああ。お前の事は甘露寺からよく聞く。不死川の嫁だろ」
蜜璃ちゃんを見る時とは全く違う雰囲気になる。目つきも鋭くなり、急に目の前に壁ができたようだ。
それにしても、この下りはいつまで続ければいいのだろうか。説明しても納得してもらえなさそうだけど、認められることではないので、一応説明はする。
「えっと、嫁ではありません。同居人です。取りあえず一度は否定させてもらいます」
「お館さまが認めているんだ。嫁だろ。嫁でいい。なぜ否定する?」
捲し立てるように言葉を紡がれる。
「うーん。お館さまは嫁とは言ってないと思うんですけど…」
「だが話の流れからすると嫁でしかない。お前はお館さまが言うことが、間違っているとでも言うのか。鬼殺隊員でもないお前が!」
取り調べでも受けているようだ。何を言っても通じない。信じてもらえない。冤罪はこうして生まれるのだ…などと、少しだけ逃避してしまった。伊黒さんには口論では勝てそうにない。
これも全てお館さまのせいだ。
「お館さま…もういいです。嫁で。違いますけど、嫁でいいです」