第19章 恋柱と蛇柱
「うーん。悩むなぁ。どれも美味しそうだし」
「おすすめはこの練り切りよ」
そう言ってお勧めしてくれたのは、紅葉の形をした可愛らしいものだった。
「もう秋ですもんね。じゃあこの紅葉の練り切りと、やっぱりおはぎを」
「ふふ。じゃあ、席に座って待っててね」
少しだけ移動して飲食スペースの椅子に座り、一息つく。この空間は本当に落ち着く。作業場への出入り口を見ながら、ぼんやりと過ごす。
「お待たせ。だけど今日はどうしたの?いつも持って帰るのに」
華子さんが甘味とお茶を、私の前に並べながら聞く。
「昨日からお仕事で、実弥さんがいないんです。一人で食べるのも淋しいし、お店で食べたこともなかったから」
「あら?そうなの。淋しいけど、いい機会になったわね。じゃあ、お相手しますよ」
そう言い、ふんわりと笑いながら、向かいの席に座る。
「えっ?華子さん、お仕事大丈夫なんですか?」
「裏はほとんど作業は終わってるし。だから、お客様が来られるまでは大丈夫よ」
「それなら、ぜひ」
優しい気遣いに、心がふわりと温かくなる。
「ところで、同居人さんとは、どこまでの関係になってるの?」
「ゲホッゲホッ!」
突然の突っ込んだ質問に、飲んでいたお茶を吹き出しそうになる。
「いきなり、何ですか?いつも言ってるじゃないですか。ただの居候先の同居人ですよ」
「ふぅーん…ただの、同居人、ねぇ。大好きな、同居人、なんでしょうも」
「そうですけど…華子さんが期待しているような色恋はありませんよー!色恋といえば、斉藤さんとは、どうなんですか?」
「いや、私の事はいいから!」
華子さんの頬は真っ赤になり、順調なのだろうと推察できる。
「私はそっちの方が気になるなぁ。隣町には一緒に行ってるんでしょ?どうなんです?お付き合いしてるんですよね」
「そう言えば、ちょっと残してた作業があったわ。ごゆっくり。ノブちゃん」
「えっ?華子さん?あのー」
形勢逆転したかと思えば、私の声を聞こえなかったかのように、そそくさと作業場へと逃げて行ってしまった。
「残念」
作業場を眺めながら呟く。お互い恋愛話は苦手なようだ。まぁ、私は恋愛というものではないのだけど。
気持ちを切り替え、目の前の甘味に目を向けた。