第19章 恋柱と蛇柱
「取りあえず、五個位、包んでくれるかァ。食べ終わってからでいい」
立ち上がろうとしたところを手で制される。
こういった所が優しいのだ。
「もう食べ終わるので、準備しときますね」
「ああ。頼む」
そう言い終えると、すぐに部屋に戻っていく。
背を向けた瞬間、少しだけ纏う空気が変わる。鬼殺隊の風柱不死川実弥に変わっていく。
こうなると、私にできることはない。
ただ、無事に帰って来てくれるように、送り出すだけだ。
お握りを包む。漬け物もつければ、十分だろう。
結局残ったのは小さなお握りを含めて三個だけになった。
洗い物が終わり、拭こうかとした時に、襖が開く音がした。
もう出発するようだ。
振り返って実弥さんを見れば、先程より鋭い雰囲気に変わっている。随分と慣れたが、やはりいつもと違いすぎて、怖いと正直思ってしまう。
これが風柱の不死川実弥。
毎回実感する。
話しかけるのも憚れる空気だが、もうそこは慣れたものだ。
「実弥さん、風呂敷、お預かりします。玄関までお持ちするので、出発の準備してて下さいね」
そう声をかけ、手に持った風呂敷を受け取る。
机の上で風呂敷を開け整理してお握りを入れる。そして、手早く風呂敷を結び直す。無事に戻ってこれるようにと、気持ちを込めながら。
待たせる訳にはいかない。急いで玄関に向かう。
実弥さんはまだ草履を履いている所で、実弥さんの後ろに座る。
屋敷ではあまりじっくりと見ることのない羽織の殺の文字を見つめながら、準備が終わるのを待つ。
この漢字に込めた実弥さんの想いは、どれだけ強いのだろう。
そんな事を考えていれば、履き終わったようで、実弥さんはすっと立ち上がる。
私はその姿を逃すことなく、見つめ続ける。
風柱の実弥さんはすごくピリピリした雰囲気になり、怖さもある。だけど、これはこれで物凄くカッコよくて、見惚れてしまう。