第19章 恋柱と蛇柱
いつもより早く目が覚めた気がする。外はまだ暗い。
実弥さんはまだ起きてなさそうだ。
早くに出るとは言っていたが、せめて見送りはしたい。時間があるなら、朝食もちゃんと食べていって貰いたい。
ならば、もう行動開始だ。
急いで身支度を整え、朝食の準備をする。
周りが随分と明るくなり始めた頃に、実弥さんの部屋の襖が開く。
「もう起きてんのかァ」
「おはようございます。見送りはしたいと思って。朝食は食べて行かれますか?」
「そうだなァ。軽く食っていくかァ」
「お握りも作れますけど」
「それも頼むわァ」
「分かりました」
手早く塩水を手につけ、ご飯を手にのせ優しく、だけどしっかりと握る。
実弥さんが無事であるように、願いをこめながら。
朝食分以外は全てお握りにする。余れば、自分の昼食にできるし。
「いっぱい作ったなァ。そんなに持っていけねぇぞォ」
作ったお握りを覗き込みながら、若干小馬鹿にしたように笑う。
「あ、一応私の分もありますよ。せっかく作るなら、一気に作った方が楽ですし」
「お前のことだから、全部持たせようとするかと思ったぞォ」
「…何なら、持っていって貰っても構いませんよ」
うっ、痛い所を突かれた。
視線を合わせることなく、そう言えば、嘲笑いながら、反らした顔に覗き込むようにして、ハッキリと言われる。
「図星だろォ」
悪戯っ子のような仕草や表情に、心臓が跳ねる。
「…ええ。大雑把ですから」
無駄に血色の良くなっているであろう自分の顔を背けながら、返事をする。
「お前らしくていいけどなァ。時間がねえから、先に食い始めとくぞ」
「は~い。こっちももう終わりますから」
最後のご飯を手にのせ握れば、少しだけ小さめのお握りができる。それもお皿に並べておく。
「私もいただきます」
ご飯と味噌汁を準備をして、実弥さんの前に座る。実弥さんはもう食べ終わりそうだった。
そのままお互い無言のまま食べ続ける。
「ご馳走さん」
「お粗末様でした」
実弥さんは立ち上がり、茶碗を流しに片付けてくれる。