第19章 恋柱と蛇柱
「記憶がねえから、不安になるのは分かるがなァ。記憶が戻ったとしても、突然消えたりはしねえだろ。考え込みすぎたァ」
頭を軽くポンポンと叩かれる。
相変わらず天然たらしだなぁと、思いつつも、嬉しくて顔がにやけてしまう。
「そう…ですね。日々の生活を一生懸命過ごします。そしたら、考える時間がないでしょうし。
あとは、色々考えそうになったら、実弥さんのこと、思っておきますね」
実弥さんの事を考えれば、さっき言われたことを思い出すだろうから、他の事を考えてもちゃんと戻れそうだ。
「ハァ?何で俺のことだァ?」
頭に?マークが、ついているようだ。流石にこの流れで、実弥さんの事を考えるのは、些かおかしいかもしれない。自分の発言が恥ずかしくなってきた。
「…無事に帰ってきてくれるように、です」
何とか無難な答えを口にする。
恥ずかしすぎて、穴があったら入りたい!
どこかの炎柱のようだ。あそこまで堂々とはできないが。そうなると、煉獄さんのあのすごさがよく分かる。
って、違う方向に考えがいってしまった。
だけど、私は恥ずかしすぎて、やっぱり顔は見れない。
「…まぁ、他の事を考えるよりはマシかァ」
実弥さんも答えに困っているのだろう。若干の間が空いた後に、吐き出すように呟いた。
チラリと見れば、横を向き、微妙な顔をしていた。
申し訳ない。
「実弥さん。ごめんなさい。変な事、言いましたね、私。聞き流してください。もしかして、照れてます?」
「んな訳ねぇだろ!」
少しだけ血色のよくなった頬が、照れていると物語る。そんな中、否定する姿は可愛らしい。間違っても本人には絶対に言えないが。
「ごめんなさい。本ッ当に、気にしないでください。どうも考えずに口にだしちゃいました。
大好きですよ、実弥さん。無事に帰ってきて下さいね」
「いつも唐突すぎるんだよ、お前はァ。んなこと、当たり前だァ。雑魚鬼なんかに手を取られる訳ねぇだろォ。さっさと片付けてくらァ」
ニヤリと笑う姿は、とてもカッコいい。見惚れてしまうが、まじまじと見続ける訳にはいかない。
間違いなく、鬼はすぐに退治して帰ってきてくれるだろう。
「はい。お待ちしてます。さぁ、残りも食べてしまいましょう」
「そうだなァ」
そう言い、二人とも、残りのご飯を食べたのだった。