第19章 恋柱と蛇柱
今日は机に向かって、手紙を見ているようだった。
いくら慣れて部屋に入ることに抵抗がなくなったとは言え、邪魔はしないように、黙々と作業を進める。
褌、手拭い位か。二、三日なら隊服は必要ないかな。
実弥さんを見れば、まだ手紙に目を通している所だったが、ここでずっと待っている訳にはいかない。
「実弥さん、お仕事中すみません。少しお聞きしてよろしいですか?」
「何だァ」
「持っていく物は、手拭いと褌だけでいいですか?」
「二、三日だからなァ。褌もいらねぇ気もするが…」
「じゃあ、手拭いだけでいいですか?」
「まぁ邪魔にはならねえから、褌も入れといてくれ」
「はい。じゃあ、こちらに置いておきますね」
風呂敷で包み、箪笥の前に置く。
「あぁ、助かる」
「では、失礼します」
そう言い部屋を後にし、その足で台所へ向かい、夕ご飯の準備を始める。
もう少し早く分かっていれば、実弥さんの好きな物でもできたけど。取りあえず、切らさずに卵は購入しているので、卵焼きは作ろう。
あとはいつもと変わらない。ただ、鬼狩りに行かないので、量はいつもより多めでいい。
実弥さんが何日も家を開けるのは、私がここへ来てから2回目だ。前回は斉藤さんが来ていたから、寂しいなんてあまり思わなかった。
だけど、今回は昼も夜も一人だ。そう考えると、やっぱり寂しい。
だけど、実弥さんが長期にいないことは、寂しいよりも怖い方が大きく心を占める。
怪我をしないだろうか。毎日戻ってくれば手当てのしようもあるけど…
それに一人の時にもし現代に戻ってしまったら…
そんなことを考えてしまう。
大丈夫。
実弥さんとの生活が当たり前になっているから、そう思うのだ。
原作通りなら実弥さんも何事もなく帰ってくるだろうし、そもそも実弥さんは強い。
そして、私もこんなタイミングで帰ることはない筈だ…多分。
もう少し、現実を見なきゃと思う反面、もう少し、このまま夢をみていたいと、相反する心が私を揺さぶる。
実弥さんとの生活が、当たり前になればなる程、欲張りになる。
…もう少しだけ。
…もう少しだけ、夢を見させて下さい。
そして、これ以上思考することは停止した。