第18章 休日と音柱 *
【実弥side】
部屋に戻ってきた。
自分の部屋だというのに、さっきまでノブと一緒にいたせいか、物凄く殺風景に感じる。
浴衣から稽古着に着替えながら、考える。
何であいつはあんなに笑っていられるのだろうと。
寝起きはあんなに気まずかったのに、笑い飛ばしやがった。なんなら初夜という単語まで出す始末だ。
俺の方が驚かされた。
流石に嫁入り前の女と、一緒に寝た事実は変わらない。しかも、ただ寝ただけでもない。その事も含めて謝れば、何故謝るのかとやや不服そうに言う。
双方合意の上ならいいんじゃないか、と。
そうだとは言え、寝る前にはまた人には言えないような事をしている。これじゃ、ただの同居人とは言いきれない。
そう思っていた事を見抜いたかのように、二人だけの秘密が増えたと、嬉しそうに笑いやがった。
俺らの関係は表立って誰かに言う訳ではない、と。
今でも嫁と間違われているくらいだから、と。
挙げ句の果てには優しいと、また言う。
こんな俺のどこが優しいと思えるのか、甚だ疑問しか湧かない。
何故あんなにも楽しそうに笑うのか。
何故あんなにもころころと表情が変わるのか。
何故あんなにも俺に構うのか。
何故あんなにも俺の事を怖がらないのか。
何故あんなにも無防備なのか。
何故あんなにも馬鹿なのか。
何故俺は、こんなにノブの事を考えているんだ。
ノブが来てから、考える事が増えた気がする。
俺らしくもない。
隣の部屋の襖が開く音がする。
ノブはもう着替えたのか。
さっさと飯を作ろう。
また昨日のことはもう過ぎたことだ。考えても仕方ない。
俺とあいつはただの同居人だ。
また夜になれば鬼を滅するために出ていく。いつもの日常に戻る。
ふっ。
溜め息にも似た笑いが、一息だけ出る。
ノブが来てから、あいつに振り回されっぱなしだ。だが、それももう慣れた。
家族と生活していた時とはまた違うが、居心地の悪さもない。
俺も随分と丸くなったもんだ。
部屋から出て、台所へ向かう。
「さっさと作るぞォ」
「あ。実弥さん。ありがとうございます」
さっきの事など忘れたかの様だ。
…居心地は悪くねえなァ。
ニヤリと笑いながら、ノブの横へ歩んで行った。