第18章 休日と音柱 *
「もう、何なんですか」
何とか声を出す。
「こっちで上書きされるのもどうかと思うぞ。減るもんじゃないんなら、どっちでもいいだろう」
「それにしても突然過ぎます。心臓が持ちません」
「宇髄はすぐに落ち着いてたじゃねえかァ」
「それは天元さんだからです」
「もう一回してやろうかァ」
ニヤリと笑いながら言う実弥さんは、どう見ても私をからかって楽しんでいる。
「いや、無理です。心臓が持ちません。実弥さんがそんな事言うなんて、まだ酔ってますよね?」
「そうだな。酔ってるかもなァ。俺ばっかりなのも、どうかと思うしなァ。啼かせてみるかァ」
「…いや、天元さんの真似しなくていいですから。本当にやめてください」
制止の意味を込めて右手を前に出す。
未だに顔の熱は引かない。
「なぁ、ノブ」
「何ですか、実弥さん」
返事をすれば、実弥さんの右手が優しく頬を撫でる。
「もう一回してもいいかァ」
さっきまでの笑った顔から一転、真剣な表情で見つめられる。触られている部分から、一気に全身に熱が駆け巡る。
「えっと……はい」
そう返事するしかなかった。
返事を聞き、実弥さんがフワッと笑う。含みもなにもない優しい笑みだ。
単行本でみた、幼少期の笑顔と変わらない。
頬に触れている右手が、ゆっくりと後頭部に回され、それと共に実弥さんの顔が近づいてくる。
ゆっくりと目を閉じると、後頭部に回された右手に少しだけ力がこもる。
その瞬間、唇への柔らかな感触があり、意識が全てそこへ持っていかれる。
一度だけ、だったはず。
柔らかな感触がゆっくりと離れ、少しだけ名残惜しいと思ったのも束の間、またすぐに口付けられる。
「んっ」
驚きで声が出た所を、タイミングよく実弥さんの左手が顎を掴み、口が半開きにさせられる。
そこに舌が入り込む。
何が起こったか、全く理解できないまま、流されるままに口づけを続ける。
口内に入った舌は何かの生き物のように動き、それに応えようと自分も舌を這わす。
ピチャッ…クチュ、クチュッ…
…ンッ……ハァッ…
タイミングを計って息をするが、後頭部をがっちり押さえられ、それもままならない。