第18章 休日と音柱　＊

「あっ。早すぎてご挨拶できませんでしたね」

「宇髄はいつもこんなだから、気にするなァ。いつもなら、挨拶もなく勝手に帰ってる」

「そっか。はぁっ。帰られたと思ったら、どっと疲れが押し寄せて来ましたよ。何なんですね、もう。取りあえず嫁は諦めてくれましたよね？」

「あぁ」

「天元さんのお屋敷にも行かなくていいですよね？まだここにいていいですよね？」

「あぁ」

「良かった。天元さんって、あんな人なんですね」

今まで通りでよいことを確認して、何とか気持ち的にはひと安心だ。さっきまでいた天元さんを思い出しながら、出ていった襖をぼんやりと眺める。

「ノブ、お前、お館さまの事…」

ゆっくりと、躊躇いがちに実弥さんが口を開く。

「あぁ！すみません。耀哉さまでしょ？ちょっと牽制できないかなぁと思って。思いの外効果抜群でしたね。それで諦めてくれたので、お館さまのお陰ですね。
でも、秘密ですよ。お館さまと二人だけの時だけって、秘密にしてたんですから」

「はっ？本当の話なのか？」

実弥さんの大きな目がこれでもかと、大きく見開いている。

「ん？ええ。私は鬼殺隊員じゃないですからね。二人でお話しする時だけは、耀哉さまとはお友達です。もうね、策士なんですよ。あの笑顔の裏はめっちゃ色々考えてますからね」

「…嘘だろ、おい」

愕然とした表情の実弥さんは、珍しい。
鬼殺隊の隊員にとってお館さまは、隊の隊長のような存在だし、父親のような存在でもある。
人それぞれの印象があるだろうけど、流石に友達や悪戯っ子というイメージは全くないだろう。
そんな事を思うことすらないのかもしれない。
お館さまはお館さまなのだ。
私が特殊なのだ。事前の知識があって、客観的に見る余裕があるからこその、お館さまの印象なのだろう。

「嘘じゃないですよ。お館さまに聞いて…いや、ばれたら怖いので、聞かないで…。信じてください」

お館さまにばれたら…
何を考えているか全く分からないあの笑顔を向けられたら…
そう考えるだけで恐ろしい。無惨より怖いんじゃないかと思う。

「信じられるかァ！」

「えぇ？実弥さん。どうしたら、信じて貰えます？」

泣きつく勢いで、実弥さんの浴衣の袖を何度か引っ張る。