第18章 休日と音柱 *
「私はここでの生活に不自由してないので、遠慮しますよ。ですが、どうしても天元さんのお屋敷に移るとなれば、耀哉さまにご相談しないといけません。何故出ないといけなくなったのか、天元さんが何をされたか、事細かにご報告させて頂きますね」
「ハァッ?」
「天元さんに無理やり口づけられたと。初めてなのに、こちらの同意もなく、無理やりですし。耀哉さまは驚くでしょうね」
天元さんにこれでもかとニッコリと笑いかける。
「ノブ、お前、お館さまの名前…」
さすがに天元さんの顔が固まっている。
「あっ。気が動転して。秘密ですよ。普段お二人でお話するときは、お名前でお呼びしてるんです。天元さん、実弥さん、秘密にしてて下さいね。お館さまとの二人の秘密なんですから」
笑顔は絶やさずに。秘密と言った時には、強調するように、右手の人差し指を口の前に持っていく。
「…俺を脅す気か?」
若干、天元さんの笑顔がヒクついているのは、気づかなかった事にしよう。
それだけ、私は振り回されたのだ。
「脅すなんて、人聞きの悪い。お館さまから実弥さんのお屋敷でお世話になるように言われてますから。変わるとなれば、お館さまに説明する必要があるだけですよ。私の事は全てお話させて貰ってますので、今回もですね。それと、私の秘密にしていることも、お館さまから直接お話しして頂けるように、お伝えしておきます」
「おい」
「私は事実を話すだけですよ。まぁ、お館さまが天元さんの事をどう思われるかは、分かりませんけどね」
渾身の笑顔は、天元さんから見れば悪意に満ちているだろう。少々脅したと思われても、諦めて貰うためだから仕方ない。
「…ハァッ。俺の負けだな。嫁の話はなしだ。記憶がないと言いながら、何だよお前は。その笑顔が何か企んでそうで、怖えーよ」