第18章 休日と音柱 *
声のする方を見ると、天元さんが襖の前に立っていた。
「えっ?いつの間に?いや、どうやってここに?」
頭の中は疑問ばかりだ。
「それで~、どっちなんだよ、不死川」
「どっちでもねぇ!ただの居候だァ」
さっきまでの優しさはどこへやら。荒々しく声を上げ、いつもの調子に戻った実弥さんの顔はこれでもかと眉間に皺が寄っている。
「ふぅん。だってよ、ノブ。じゃあ、俺が貰ってもいいんだな」
それを見ても何ら変わりのない天元さんは、やれやれといった感じで、私に話を振る。
また嫁の話が再燃だ。
「いや、私、物じゃないですけど。それに、その話しはさっき終わりましたよね?」
「終わってないと思うが。俺はノブを嫁にすることは諦めてないぞ」
何で諦めないのか。ここまで拘る理由は、私の秘密を知りたい、と言うだけでは、説明がつきそうにない。
わざわざ嫁じゃなくていいのに。
「いや、お嫁さんいるから、もういいでしょ。私を貰ったところで、お荷物以外の何にもなりませんよ」
「お前、面白いしなぁ」
クツクツと笑いながら言う姿は、どうみても悪ガキだ。
「面白いとの理由だけで、嫁にするとか言わないで下さいね」
せっかくの実弥さんとの時間を邪魔されたという思いと、天元さんに振り回されてばかりだ。流石に苛立ちが隠せなくなり、口調が荒くなってしまう。
天元さんも気づいたのか、急に真剣な顔になる。
「それだけじゃねえよ。よく見りゃ美人だし、話すことは面白いし、飽きねえし。料理もうまかったし。気を遣える所とか、いいんじゃねえの。何よりお前の風呂上がりの姿は色っぽかったしなあ。こうやって怒ってる顔もいいが…」
そう言いながら私の側に片膝を立てて座り、右手でゆっくりと頬を撫でられる。
「はいっ?」
突然の事に、何故か返事をしてしまった。
それを聞いた天元さんは、一瞬ふわりと優しく微笑んだ後、また真剣な顔に戻る。