第18章 休日と音柱 *
「無理するなァ」
そんな私に何を思ったのか、実弥さんの手が私の頭に伸びてくるのが、視界の端に入った。気を悪くしたのかと、思った瞬間、その手は私の頭を優しくゆっくりと撫でた。一気に顔に熱が籠る。
「ノブ、お前はそのままでいいんだァ」
その言葉を聞いた瞬間、心臓が鷲掴みにされたようにぎゅうっとなる。
実弥さんの手は、そのままゆっくりと髪の毛を掬い上げる。パラパラと実弥さんの指の間から自分の髪の毛が落ちていく。恥ずかしいけれども、気持ちがいい。
そして、どうしようもなく嬉しい。
自分でも40歳なのか若いのか、私にも自分の存在が全く分からない状態だ。自分は自分だ、と思っていたけど、実弥さんから言われたことで、すごく肯定された気が…すごく認めて貰えた気がした…
どこかで不安な部分があったんだと思う。
「…何で泣く?」
実弥さんは驚いた顔をしていて、だけど、私を慰めるかのように、またゆっくりと頭を撫でてくれる。
されるがままの私は、涙が出ていた事にすら気づいていなかった。それだけ実弥さんの言葉が、心の奥底から嬉しかったのだろう。
一度顔を下に向け、急いで浴衣の袖で涙を拭き、顔をあげる。
「この間から、実弥さんの前では情けない姿ばっかりですね、私。ちょっと嫌になります。
前もお話した事と同じような事になるんですけど。
信じて貰えない事がちょっと続いてたので、自分の存在って不安定だなって思ってたみたいです。自分では大丈夫って考えてたんですけどね。
やっぱり実弥さんって、すごいですね。さっきの一言で、一気に元気になりましたよ。
実弥さんが認めてくれる事が、私にとって一番なんですね。本当、よく分かりました。
私、これでまた頑張れます。ありがとうございます。
お屋敷では少しでもゆっくり過ごしてもらえるように頑張ります」
「…そうかァ」
その一言だけ。
だけど、いつもでは考えられない程の柔らかい表情で、ゆっくりと頭を撫でられる。実弥さんにとっては、犬か猫を撫でるのと変わらないのだろう。だけど、私にとってはこれで十分だ。