第17章 休日と音柱
「だけど、冨岡さんって、何かちょっとズレてますよね?何か言ってることも、おかしくて。多分言葉が足りないんでしょうね。
それに興味をもったら、それに集中しちゃいすぎますし。みんなの話が進んでても、一人その話題のままですし。ほら、乳バンドの話の時とかそうだったじゃないですか。
何だか手のかかる弟みたいで。
義勇さんには秘密ですよ。もう今は弟にしか見えないんです、私。
義勇さんもお一人のようですし、こんな私でもお役に立てるかなと思ってるんです。居候させて貰うにしても、お世話になりっぱなしでは、いけないですから」
乳バンドの時の義勇さんの様子を思い出すと、クスクスと笑いが止まらない。
「冨岡が弟…そんな風には思えねぇがなァ」
天井を見たまま、ゆっくりと呟いた。
「嫌な奴、じゃなくて、弟だって思って一度見てくださいよ。絶対、手のかかる弟ですよ」
実弥さんは長男だ。だから、冨岡さんが弟認定されれば、突っかかることも少しは減るのではないかと思うのだ。
「お前は何でそんな見方ができるんだァ。お館さまも悪戯っ子とか言ってたし」
実弥さんは急に寝返りをうち、私の方に体を向け肘枕をした状態になる。
「おばちゃんだからですかね。ふふふっ。
そうだ。実弥さん、一応追い出されたらどうしたらいいか考えてますけど、私は命の危険がなくなるまで、できれば実弥さんのお屋敷にいたいです。頑張るので、追い出さないでくださいね。お願いします」
「お前が変な事を起こさなければなァ」
珍しく微笑みながら、左手でまた頭を撫でられる。
どんな状況なんだ、これは。
一気に顔に熱くなる。
「でっでも、実弥さんに大切な女性ができたら、すぐにでも出て行きますから。ちゃんと言ってくださいね」
「俺には必要ない」
視線を外すように、またごろんと天井を見る体勢になる。
私はうつ伏せになり、肘をつき、上半身を上げた体勢になる。天井を見る実弥さんの顔がよく見える。
「実弥さんも若いですし、実弥さんの事を理解してくれて、支えてくれる素敵な女性もいると思いますけどね」
「そんな時間があるなら、俺は一体でも多く、鬼を葬り去る」
じっと天井を睨むように見つめる実弥さんは、確固たる意志があるのだろう。自分の幸せより、家族でただ一人生き延びた弟の玄弥くんを守るため。
だからこそ、辛く当たっているのも分かる。