第17章 休日と音柱
【実弥side】
そうだ。酒のせいだ。
ノブの言う通り、酒のせいなんだ。
変な夢を見たのも、下半身が疼くのも、ノブの誘惑に拒否できないのも。
そして、ノブに触れたいも思う事も、だ。
全部酒のせいだ。
「実弥さん、いっしょねよ。私も…ひとりは…さみしい……」
瞼が落ちながら、何とか言葉を紡いでいたが、また寝てしまったようだ。
左手は布団から離れ、俺の浴衣を握っている。
寂しい…か。
ここに来てからずっと一人だったしなァ。
寂しいというのは本音なんだろう。普段は全くそんな雰囲気、尾首にも出さねえってのに。
「仕方ねェ。お前が言うから、寝てやるよォ。お前が離さないから、帰れねえしなァ」
誰かに弁明する訳でもないのに、言い訳めいたことを呟く。握られている浴衣はすぐにでも離せる。だけど、それを理由に一緒の布団に横になる。
酒のせいだ。
そしてノブが誘ったからだ。
決して俺ではない。
すぐに浴衣を握っていた左手が離れ、くるりと寝返りをうつ。俺の前にはノブの背中が見える。
触れたい…
ゆっくりと腕を回し、身体を寄せる。ちょうど一回り小さい位で、きれいに抱き込む形になる。
「…温けぇ」
誰かと床を一緒にするなんて、いつが最後だっただろうか。全く覚えていない。
こんなにも柔らかくて、温かいものだっただろうか。こんなに体を寄せ合うだけで、満たされるものだっただろうか。
これも酒のせいなのか。
初めての感覚に戸惑いが隠せない。
下半身の熱はまだ引かなそうだが、苛立ちはノブの髪を触った時には引いていた。
ノブの規則的な寝息と心臓の音が心地いい。
そのまま瞼を閉じれば、ゆっくりと、だがわりとすぐに夢の世界へと旅立ってしまった。