第17章 休日と音柱
「ふぅ。気持ち良かったぁ」
風呂から上がり、呟いた言葉は湯気と共に消えていく。
普段は時間に追われてバタバタと入っているけど、久しぶりにゆっくりと入れた気がする。
身の回りを整え、お風呂場から出る。明かりはついているからまだいるようだが、声は聞こえない。
もう帰ったのかな、と思いながらも、帰りもゆっくりと、そしてできるだけ音は立てないようにして廊下を進む。
ちょうど突き当たりに差し掛かった所で、声をかけられる。
「おっ。ノブじゃねえか。ん?風呂上がりか?」
取りあえず振り返り、返事をする。
「はい。今上がった所です。すみません。お邪魔しないようにと思ってたんですが」
「気にすんな。それより、俺はお前に興味がある」
そう言うと、目の前に天元さんが迫っていた。
所謂壁ドン状態…
実弥さんのも破壊力抜群だけど、天元さんは更に、だ。湯上がりで火照った顔が熱くなるのがわかる。
「えっと、この状況が全く理解できないんですが…」
「ノブ、お前さ、何か隠してるだろ?」
「…はいっ?」
「不死川を騙している感じはしねぇが、何かちょっと信用ならねえんだよな。何かはわかんねえが、違和感があるというか。とにかく、お前は何者だ?」
先程までの優しげな表情と違い、天元さんの鋭い視線が上から突き刺さる。
「お酒を呑まれてるからそう感じるんじゃないですか?私はただの居候ですよ」
天元さんの鋭い視線の先にある目をしっかり捕らえながら、答えをはぐらかす。
「これくらいじゃ酔わねえよ。正直に言え」
鋭い視線に加え、先程までとは違う殺気のようなものが、天元さんを、纏い始める。
こりゃ、下手にはぐらかさない方が良さそうだ。一度視線を外し、ふうっと息を吐き出す。そしてもう一度、目の前の天元さんの目をしっかりと捉えると、ゆっくりと話し始める。
「天元さんが私の事を疑っていらっしゃるようですので、正直に言いますが、私が隠している事があるのは間違いありません」
天元さんの視線が更に鋭さを増す。だけど、それから逃げる訳にはいかない。私も視線を外すことなく、しっかりと天元さんの目を見て、話を続ける。