第17章 休日と音柱
卵焼きを焼く。いつもの少し甘めのものと、砂糖は入れずに出汁だけで焼いたものと、二つ作る。
多分天元さんはお酒を呑みそうだし、甘いものはそんなに食べなさそうな気がする。だけど、実弥さんはいつもの卵焼きが好きだから、それぞれ作ったのだ。
皿に盛り、漬け物も準備すれば、出来上がりだ。
足りないような気もするが…天ぷらもあるし、まぁいいだろう。
全てお盆に載せ。客間へ持っていく。
近づくにつれ、話し声が聞こえる。天元さんがメインかと思えば、実弥さんもけっこう話している。
案外楽しそうだ。
「失礼します」
部屋の手前でそう声をかける。
「おっ、ノブ。入ってこい」
何だかんだで天元さんが仕切っているのが、イメージと同じで、クスリと笑える。
ゆっくりと部屋の様子を伺うと、向かい合って呑んでいる二人が目に入る。
一礼して部屋に入り、二人の側で一旦腰を下ろす。
「おつまみになるか、分かりませんが、お持ちしました。良かったら、こちらもどうぞ」
そう言い、天元さんと実弥さんの前に皿を置く。
「ノブ、これ、上手いなぁ」
唐揚げを箸で摘まみながら、天元さんは言う。
「お口に合ったなら良かったです。では、何かありましたら、部屋にいますので、声をかけてくださいね。ごゆっくりどうぞ。それでは失礼いたします」
手を前につき、ゆっくりと頭を下げながら言い、そして、言い終われば、ゆっくりと立ち上がり部屋をあとにする。
部屋を出れば、また天元さんの楽しそうな声が聞こえてくる。嫁と聞こえたような気がするが、たぶん違うだろうと、自分に言い聞かせる。いくら言っても平行線を辿るだけで、疲れるだけだ。
それよりも、私もお腹がすいた。台所に戻り、実弥さんが分けてくれた天ぷらと唐揚げ、そして卵焼きの端切れをおかずに夕食を食べる。天ぷらと唐揚げはもう冷えてしまったけど、サクサクとしていて美味しい。
唐揚げは本当に懐かしい。
遠くに二人の声が聞こえてくる。内容まではわからない。だけど、いつもの一人の夜とは違っていて、何だか安心だ。
一人でご飯は食べてるけど、屋敷に一人じゃないってことは、こんなにも安心して過ごせるのだと実感する。
頬が緩んだまま、夕食を食べ進めた。