第17章 休日と音柱
「作りながら、出来立てをつまむのが一番美味しいんですよ。実際食事を食べる時は旦那さんとか子ども達に多めに分けてますけど、実は世の中のお母さん達はこうやって、一番美味しい物を食べてるんですよ」
自信満々につまみ食いについて説明すれば、実弥さんも納得したのか、珍しく笑っている。
「くっくっ。違いねぇ。おい、ノブ、今揚げてるのは、何だァ?天ぷらの匂いじゃねぇがァ」
唐揚げのいい匂いが充満してきた。気づかない方がおかしい。
今日の実弥さんはたくさん話してくれるので、何だかこっちまで楽しい気持ちになってくる。
「ふふ。唐揚げですよ」
「何だァ、それはァ?」
この時代には、まだ唐揚げと言う献立はあまり浸透していないようだ。それなら、食べた時の反応が楽しみだ。
「それは出来上がってのお楽しみです。もう揚がりますから、待っててください」
そう言い、揚がった唐揚げを皿に盛っていく。なかなかいい感じに揚がったと思う。
火を消し、出来立ての唐揚げを持って、椅子に座る。
さぁ、私も今から食事時間だ。
「どうぞ。唐揚げです」
「見た目は旨くなさそうだなァ」
茶色い塊に、美味しさは感じないだろう。
「まぁ騙されたと思って、食べてみてください。私もいただきます」
手を合わせて、すぐに唐揚げに箸を向け、一口頬張る。
「熱っ!うん、でも美味しい~。実弥さんも食べてみてくださいよ」
「本当に旨いのかァ?」
どうも信用できないようだ。意外と実弥さんは、何でも食べる感じではないようだ。このままでは食べないまま終わってしまう。熱々が一番美味しいのだから、それを食べてほしい。その気持ちから、唐揚げを箸でつまみ、実弥さんに差し出す。
「もう。私が食べて美味しいって言ってるんですから。ほら、はい、あーんして下さい」
「アァッ!」
案の定、眉間の皺はかなりの数で、声もかなり大きく、今にも怒ってしまいそうだ。だけど、ここまでしたのだから、引き下がる訳にはいかない。
「食べないじゃないですか。はい、どうぞ。あーん」
「食べればいいんだろッ!」
そう言い、唐揚げを荒々しく箸で掴み、口の中へ放り込む。