第17章 休日と音柱
「風呂はどうするんだァ?」
稽古が終わり、お風呂から上がった実弥さんから、声をかけられる。
「今日は天ぷらなので、ご飯の後に入らせてもらおうと思ってます。今日は実弥さんがいるので、少し遅くても安心ですし。あ、お食事、どうします?もう後は揚げるだけですけど」
「何もすることもないし、食べるかァ」
「じゃあ、準備しますね」
実弥さんは一度部屋に戻って、身支度と髪を乾かしている。ドライヤーなんてないから、手拭いで拭き取るだけだ。風呂上がりで軽く拭くだけで、いつもの髪型になるから、実弥さんはああいう髪質なのだろう。
一度は髪の毛がおりている姿もみたいものだ。
そんな事を考えながら、天ぷらを揚げる。最初はお野菜、後に唐揚げだ。ご飯と味噌汁、漬け物も用意していれば、最初に入れた物はもう揚がっている。
「結局、いつもと変わらない時間になったなぁ」
天ぷらを揚げながら呟く。
長年染み付いた生活習慣だ。特別に任務があるわけでもなく、今日だけ変える事はなかなか難しいのだろう。
揚がった天ぷらを机に運んでいると、実弥さんが部屋から出てきた。
「実弥さん、今揚がったばかりなので、どうぞ。あと、天つゆも作ってみたので、お好みでどうぞ」
「いただきます」
実弥さんは当たり前のように台所の椅子に座り、手を合わせる。
「はい、どうぞ」
次の天ぷらを揚げながら、そう答える。
「…うまい」
今日の天ぷらは合格点のようだ。実弥さんの声が漏れている。
「良かった。実弥さん、これもどうぞ」
続いて揚がった天ぷらを目の前に追加する。
「食べないのかァ?」
「もちろん食べますよ。でも、天ぷらは揚げたてがおいしいですし。あとこれを揚げたら終わりなので、私も食べますよ。それに、今からつまみます。だから、実弥さんは気にせずゆっくり食べてください」
そう言い、追加した茄子の天ぷらを一つ箸でつまみ、口にする。サクッとした衣に、茄子のジュワっとした旨味が広がる。
「ん~おいしい」
「行儀が悪いなァ」
声のした方を見れば、ニヤニヤしている実弥さんが目に入る。