第16章 呉服屋さん
「いや、ノブちゃんと話して楽しかったし。新鮮だった。正直に言うと、ノブちゃんが感じた通り、好好意を抱いてる。もっと仲良くなりたいとも思ってる。だけど、無理は言わない。
でも…俺達、知り合いにはなれたよね?たまたま会ったら、話したりしてくれるかな?」
「…そうですね。どこかでお会いしたら、お声をかけて頂ければ、無視するような事はしませんよ」
本当は無視したいとこだが、向こうなかなか諦めようとしない。流石にこの提案は、蹴る事は難しいかと思い、こちらも少し譲歩した。
もう既に知り合いだ。顔も名前も覚えてしまった。流石に声をかけられて、無視する勇気はない。
嫌な予感は少し残るが、周りの人がよく知っている人だ。周りの目があるし、たぶん大丈夫だろう。
「良かった。ありがとう、ノブちゃん」
今にも泣いてしまうんじゃないかという位、くしゃっとした笑顔になる。こういう部分は可愛らしいなぁと思ってしまう。
「もう、勇ちゃん。ごめんね、ノブちゃん。嫌になったらすぐに私に言ってね。もうノブちゃんの前に現れないようにするから」
横で聞いていた華子さんが証人だ。これ程頼もしい人はいないだろう。
「ありがとうございます、華子さん。心強いです。お店でこんな込み入った話をしてしまって、すみません」
「大丈夫よ。他にお客様もいなかったし。今の話は私がちゃんと聞いたから、勇ちゃんが暴走したら止めてあげる」
「なんだよ、華ちゃん。暴走なんてしないよ」
心外だというような雰囲気で勇一郎さんは言うが、すぐに華子さんが反論する。
「あら?周りが見えなくなっちゃうのは、誰かしら?ノブちゃんを困らせたり、嫌な思いをさせたら、すぐにご両親とお婆様に言い付けるからね」
「…お婆様だけは、やめてくれ」
どうもお婆様は、勇一郎さんにとって怖い存在のようだ。
今日一番で、顔が強ばっているし、どことなく顔色も悪い。それだけ恐れられるお婆様はどんな人なのだろうと、そちらの方に興味が沸く。