第16章 呉服屋さん
「お待たせ。はい、どうぞ。どうしたの、勇ちゃん?」
華子さんは、私と勇一郎さんにそれぞれ購入した甘味を渡す。勇一郎さんの顔を見て、首を傾げる。その様子はとても可愛らしい。
「あ、いや、大丈夫。ありがとう、華ちゃん」
「ありがとうございます。じゃあ、華子さん。また来ますね。勇一郎さんもお約束だったので、ここまでですね。今日はありがとうございます。楽しかったです」
お金も支払い、商品も受け取った。今日は実弥さんが夜いるから、早く帰りたい。いつもなら、華子さんと少し話しもするが、今日は急いで挨拶をする。
「ノブちゃん、また会えるかな?」
「それは難しいお話しですね。すみません」
「それは、居候先の人がいるから?」
「いえ。居候先の方は関係ありませんよ。先程お話ししたと思いますが、私は記憶がありませんし、あまり多くの方とは関わりを持とうとは思っていません。それに、特定の方とお付き合いをすることも考えていません。例え記憶が戻ったとしてもです。
勇一郎さん、もし違っていたら申し訳ありません。そう言う雰囲気を感じたので、言わせて頂いてます。ご気分を害されたら、本当に申し訳ありません。ですが、もし私とそういう事を考えてらっしゃるのだったら、諦めてください」
「いや、でも…」
図星だったのだろう。今にも泣きそうな顔で、受け答えはしどろもどろになっている。ここで話しは終わらないと後が大変だ。
「私の気持ちはお話ししました。このお話しはもうこれでおしまいです」
「ノブちゃん。友達…友達には?」
「先程言いましたよね。あまり多くの方と関わりを持とうとは思っていません。だから、私とわざわざ友達になる必要はないと思いますよ」
どうしても関わりを切りたくないのか、友達との提案をされるが、どちらにしろ私としては勇一郎さんとはこれ以上関わりを持ちたくない。そう思い、少し厳しめに伝える。