第16章 呉服屋さん
「それは結論が出たので、置いときましょう。華子さん、おはぎお願いします」
「分かったわ。ちょっと待っててね。勇一郎さんはご注文は?」
「じゃあ、俺もおはぎを。数は…」
「家族分用意しとくわね」
流石華子さん。勇一郎さんが言う前に、答えを出し、さっさと店の奥へ入っていった。
先程までの騒がしさが嘘のように静かになる。
「勇一郎さんはご家族、多いんですか?以前、幸子さんからお子さんが多いとはお聞きしたんですが」
沈黙が落ち着かず、前に幸子さんから聞いた事を尋ねてみる。
「今一緒に住んでるのは全部で10人。親父と母さんと、ばあちゃん、あと兄弟が五人。結婚して二人の妹は出てってるから、兄弟は八人なんだよ」
お子さんが多いとは言っていたが、本当に多い。そんなに年齢はいってなさそうなのに、これだけの人数を産むとなると、早くから産み、そして年子も当たり前の勢いだろう。
三人でもヒーヒー言っていたが、この時代では少ないと笑われそうだ。
それにしても、この時代ではそう珍しいことでもないのだろうけど、一人っ子や核家族が多い現代ではこんな大家族は珍しい。そう言えば、実弥さんも炭治郎も兄弟が多かったから、珍しくもないのだろう。
「うわぁ!本当に多いんですね。お土産もかなりの量になっちゃいますね」
「そうだね。それに、ここの甘味はみんな大好きだから、喜ぶし、すぐなくなるよ。ノブちゃんはおはぎが好きなの?」
「おはぎも好きですけど、一番はあんこが好きなんですよ。おはぎは居候先の方が好きなんです。だから、私も同じ物を買ってるんですよ」
「…居候先の人ね」
ボソッと何か呟いたようだが、私の耳までは何と言ったか聞き取れなかった。
聞き返そうかと思ったが、華子さんが戻ってきたので、これ以上話を拡げても面倒だとの思いが先立ち、そのままスルーした。