第16章 呉服屋さん
「勇ちゃん、全然気づかなかったでしょ?ちゃんとノブちゃんのこと見てた?ちゃんと返事を聞いた?質問ばっかりしてなかった?勇ちゃんは、自分がこうって思ったら、一直線だから。本当、周りが見えなくなっちゃうのよね。だから、ノブちゃんも言い出せなかったのよ。少しは大人になったと思ってたけど、本当、そんな所は昔と何にも変わってないのね」
元々こういう性格なのだろう。呆れた表情の華子さんは追い討ちをかけるように、ポンポンと勇一郎さんを責めていく。
「そう言えば、お二人は以前からのお知り合いなんですか?」
ちょっと可哀想になり、話題を変えてみる。多分そうだろうとは思うが、気になっていたのだ。
「幼馴染み。腐れ縁よ」
「腐れ縁って…その言い方は淋しいなぁ。幼馴染みでいいじゃん。聞いてよ、ノブちゃん。華ちゃんより、俺の方が年上なんだけど。何だかいつも言いくるめられてさ」
ふて腐れて、何とか違うと釈明する姿は、どう見ても華子さんより年下だ。年上には全く見えなくなっていた。
「そんな事はないわよ、勇ちゃん。勇ちゃんがいっつもぼーっとしてるから、私が色々とお世話してあげたんでしょ。言いくるめてはいません!ちゃんと自分の事をできるんだったら、私もそんなに言ってないんだから。勇ちゃんだけでしょ?他の兄弟にはこんなに言ってないわよ」
「ふふふ。二人のご関係がよぉーく分かりました。何だかこんな雰囲気の華子さんも珍しいから、新鮮です。だけど、勇一郎さんって、何だか弟な感じがしますよね」
「そうなのよ!分かるわ、弟なのよ!目が離せないのよ」
華子さんの後ろにはキラキラとした効果があるかのような笑顔だ。
「二人とも、俺、年上なんだけど」
それとは対称的に、ずーんと暗い顔でボソッと呟く勇一郎さんに、私もはっきりと言わせてもらった。
「年だけ、ですね」
「そう、年だけは上だわ。ノブちゃん、その通りよ!」
女性陣の意見が一致し、勇一郎さんは蚊帳の外だ。