第16章 呉服屋さん
翌日。
昨日の雨が嘘のように晴れ渡って気持ちがいい。
「実弥さん、ちょっとお買い物行ってきますね」
そう言い、屋敷を出る。お昼ご飯を食べてすぐだ。昨日の雨が嘘のような晴天で、かなり暑くなってきている。
「もう夏なんだろうなぁ」
そんな事を呟きながら、まずは幸子さんのお店に向かう。
「こんにちわ~」
そう言いながら扉を開けるが、誰もいない。
「幸子さ~ん。こんにちわ~!ノブです~」
もう一度大きな声で挨拶すると、奥から声が聞こえてきた。
「はいはい。ちょっと待ってね~すぐ行くわ~」
「あ!ゆっくりで大丈夫ですよ~」
そう返事をし、扉を閉めていると、後ろから幸子さんとは違う男性の声で迎えられる。
「いらっしゃいませ、ノブ様」
驚き、後ろを振り向くと、隣町の呉服屋の男性が笑顔で奥から出てきていた。
まさか、もう会うことはないだろうと思っていたので、名前は…何とか一郎さんだった気がするが…。
うん。覚えていない。
「こんにちわ。先日はご迷惑をおかけしました」
言い終わると、軽く会釈をする。
「そんなことはないですよ。またお会いできるなんて、光栄です」
私はもう会うことはないだろうと思っていたので、営業スマイルとトークが全開な姿に、申し訳なさと、気まずさが汲み上げる。
取りあえず話を変えようと思い、先日聞いたことを話してみる。
「えっと、幸子さんの息子さん、なんですよね?」
「そうです。勇一郎と言います」
「あら、もう。あなた、ノブちゃんだと、こんなに早いのね」
天の助けの幸子さんが現れた。
何で勇一郎さんはここにいるのだろうか。今まで見たことがなかったけど、流石に本人に聞く勇気はまだない。
「えっと、勇一郎さんは、今日はこちらにいらっしゃるんですね」
幸子さんに顔を向け尋ねる。