第16章 呉服屋さん
「どっちでもいい。それより、明日の夜は休みだァ」
「お休み、あるんですね。ずっと出て行かれてたので、休みはないのかと思ってました」
そう言えば、全くと言っていい程、休みと言う日はなかった。毎日同じことの繰り返しなので、こんなものなのかと思っていたが、違ったようだ。
「自分の都合で休んでいいんだが、休んだ所で何もすることがねぇからなァ」
「じゃあ、何で今回は?」
「…休んでないと、お館さまから連絡が来るんだよォッ!」
そういうことか。
流石に全く休まない訳にはいけないが、実弥さんは他の誰から言われても休むことはしないだろう。一日でも早く鬼を葬り去りたいと思っているから。
だけど、それではいくら若いとは言え、疲労は重なる。
ついこの間だって、気づかない位寝ていたのだ。
いつもこんな状態なのだろう。お館さまから言われるまで働き続ける。そしてお館さまから言われて、やっと休む。
実弥さんが倒れては本末転倒なのだけど、本人はその自覚はない。何にしろ、自分の事は全て後なのだ。
「ああ!お館さまから。じゃあ、休まないといけませんね」
「ったく、休んでも、何もすることはねぇのに」
腕を組み、左肩を襖に預け、顔をそらしながら言う姿は、少し駄々っ子のようだ。
「そんな事を言っても、少しは休まないと。実弥さんが強くても、若くても、疲れは溜まるんですから。強い鬼と対峙した時に、体調が万全じゃなかったら、本末転倒ですからね。明日の夜はゆっくり過ごしてくださいね」
「……」
黙りを決め込む実弥さんに、追い討ちをかけるように、もう一言付け加える。
「お館さまがおっしゃってますからね」
「…分かったから、何回も言うなァッ!」
流石に実弥さんの眉間の皺も深くなり、声も大きくなる。これ以上はやめておこう。
「は~い。明日の夕食はゆっくりめに準備しますね。せっかくだから、一緒に食べましょうよ」
「…あぁ」
「楽しみです。そうと決まったら、何か美味しい物でも食べたいですね。何にしましょうかね」
夕食を一緒に食べれるなんて、想像していなかった。夜はすぐに休むことしか考えていないので、実弥さんがいるだけで、安心感がまるで違う。
それに、何だかお出かけの前のような感覚だ。