第16章 呉服屋さん
翌日は雨だった。雨だといつもの仕事も、どうしてもできないものがある。その分、日中は時間ができたので、購入した生地でリボンを作っていた。
蜜璃ちゃんへのお礼にするのだから、早い方がいい。
隣町の呉服屋、掛川で購入した生地は、黒地に大きな花が入っている。白と赤の花だ。
昨日は花の色に合わせて、赤と白の生地を購入した。
黒の生地の足りない部分に無地の赤の生地を合わせる。赤い花との色味も合って、とても素敵なリボンになった。
お店で見た売り物でも、こんなものはなかったと、心の中で自画自賛する。
「うん。いいんじゃないかな」
独り言を呟きながら、ゆっくりと縫っていく。リボン自体はそんなに大きくはないので、すぐに縫い終わった。あとは形を整えていけば出来上がりだ。
「うん。可愛い」
何となくで作ったにしては上出来だ。
もう一つは白の生地を合わせて作る。これも思った以上の出来になりそうだ。
「どっちも可愛いなぁ」
出来上がったリボンを両手に持ち、眺めながら呟く。合わせる生地や柄の違いで、全く違う印象になる。
「どっちがいいかなぁ。二つともあげようかな」
「何を一人でブツブツ言ってんだァ?」
稽古を終えたであろう実弥さんが、部屋の入り口で呆れた顔で見ている。
「すみません。リボンを作ってたんですけど、思いの外可愛らしくできたなぁと思ってたんですよ。見てください」
両手に持っていたリボンをそのまま実弥さんの方へ向ける。
「興味ねぇなァ」
実弥さんはそう言い、顔を反らす。
だけど、私はどうしても見て欲しくて、立ち上がり実弥さんの近くまで歩み寄る。そして、少しふて腐れた感じで、リボンを持った手を実弥さんの目の前に突き出した。
「もう、そんな事言わずに!見てくださいよ。がんばって作ったんですから。蜜璃ちゃんにこの間のお礼であげようと思ってるんでふ。実弥さんはどっちの方が好きですか?」
ヒラヒラと、実弥さんの目の前にリボンを揺らしてみると見てくれたが、その分眉間の皺が大幅に増えた。本当に興味はなさそうだ。