第16章 呉服屋さん
「幸子さんが期待しているような、好い人ではないですよ。居候先の方ですから。かなりお世話になってるんですけど、何もお返しできてないので。褌なら、生活必需品だし、貰っても困らないかな、と思って」
「あら?好い人じゃあないの?ノブちゃんは好きそうな感じがするんだけどなぁ。でも、あげるなら、着物とかの方がいいんじゃないの?」
幸子さんはニヤニヤとしながらも、的確なアドバイスをくれる。とても楽しそうだ。
「好きは好きですよ。でも、色恋の好きではないですから。着物も考えたんですけどね、好みがありますし。せっかくなら使って貰える物がいいなぁと思って。褌なら、毎日使ってますし、必要な物ですし」
そうなのだ。ほとんどが隊服で過ごす実弥さんには、着物を着る機会はあまりない。しかも、もう既にいくつかあるので、あげたところで箪笥の肥やしだ。
どうせ送るなら、使って貰える物がいい。
そこでたどり着いたのが、褌だ。毎日洗濯をしていて気づいたのだ。
褌は毎日使う。しかも、替えはいくつあってもいい。
もし実弥さんが必要でなければ、玄弥くんや他の隊士にあげてもいい。他の人だって生活必需品だ。
そうして考えた結果、私が実弥さんに送ろうと決めたのだ。
「そうね。間違いなく褌は必要よね。最初は驚いたけど、理由を聞いて納得したわ。ノブちゃんらしいわね。でも、ごめんねぇ。今ちょうどなくて。注文はしているから明日中には届くと思うわ」
「分かりました。じゃあ、明後日伺いますね」
残念だが仕方がない。次の約束をまでには、リボンも少し作ってみて、幸子さんにもみてもらおう。
「分かったわ。ちゃんと取っておくからね」
「はい。よろしくお願いします。では、また伺いますね」
そう言い、その日はそのまま生地屋をあとにした。