第16章 呉服屋さん
蜜璃ちゃんの事を知っていると言うことは、一つの言葉が思い浮かぶ。
「お得意様、なんですか?」
「お得意様もお得意様よぉ。いつも来ていただいたら、必ずと言ってもいい程、買って頂くのよ」
そりゃそうだ。あの値段の着物を、ポンポンと買っていくのだから。お得意様以外の何者でもない。
蜜璃ちゃんも、行ったら必ず買っちゃうのね…まぁ、柱だからお金には困ってないし、他に使うこともないから、買い物で散財しちゃうんだろうなぁ。
一緒に行った時の様子を思い出し、一人で納得する。
「この間も買ってましたよ。私には手の届きそうの無いものばかりでしたけど」
「そうね。掛川はこっちと違って、良いものだけを揃えてるからね」
それはあの店の雰囲気からも分かる。まずもって店に入るところから、ハードルが高い。見るからに呉服屋、値段も高いですよ、と言った店構えで、蜜璃ちゃんがいるから入ったものの、それでもかなり気が引けた。
だからこそ、あの生地の山は、お店の雰囲気と違っていて、違和感があった。私のようなお金のない庶民には、とても嬉しいサービスなのだが。
「本当見るだけで満足でしたよ、私は。でも、すごいお店なのに、あのお買い得品は本当に知る人ぞ知るって、感じですね。私もこの生地が買えて、すごく嬉しかったですもん」
「そうでしょ?良いものを揃えてるけど、やっぱりそれに手が出ない人がたくさんいるからねぇ。どうせ生地の切れ端が出るから、それをお買い得品として販売してるのよ」
「幸子さんが考えたんですか?」
幸子さんが考えたということに驚き、尋ねてしまう。
「ええ。私はこっちのお店の方が長いからね。2号店が出来た時にこっちのお得意様も行ってみたいって話してくれていたし。それで、色々と考えたのよ」
「流石です!あの日も少しの時間に何人か買いに来られていましたよ」
色々な層のお客様がいる。
それぞれ店のコンセプトはあるだろう。それは商売をする上で大切な事だ。
だけど、このお店の大多数を占める富裕層ではないお客さんも入れる、ちょっと敷居が高いお店は、幸子さんだからこそ考えることができたんだと思う。それだけ、このお店に来てくれるお客さんも大切に思ってくれているのだろう。