第16章 呉服屋さん
悲鳴嶋さんの所へ行ってから、幾日か経った頃、久しぶりに生地屋のおばちゃんの所へ行った。
「こんにちは、幸子さん」
生地屋のおばちゃんは幸子さんと言う。
ここのお店は一人で切り盛りしているようだが、お子さんがたくさんいるので、よく手伝ってくれると聞いたことはある。
幸子さんは少しふっくらとして、穏やかに喋って、包み込んでくれるような雰囲気があり、何となく安心感がある。
数える程度しか会ってないのに、気軽に話しかけてくれるのも、安心感を覚える一つの要素かもしれない。
まぁ、相手も商売だろうから、そんな対応の仕方なのだろうけど、悪い気はしないから、何かあれば通ってしまっている。
だけど、勝手に生地屋のおばちゃんと言ってる(思ってる)とは言え、多分50歳にはならない位だろう。
実は同年代かもしれない、と最近心の中では思っている。
「あら~、ノブちゃん。いらっしゃい。今日は何かしら?」
いつもと変わらず、笑顔で迎えてくれる。
「この間、初めて隣町に行ったんですよ。そこでちょっと可愛い生地を買ったんです。あっ。他のお店ですよね…すみません」
「そんなの、気にしなくて大丈夫よぉ。可愛い生地って、どんな生地なの?」
「これなんですけどね…」
そう言いながら、生地を取り出し渡すと、幸子さんは驚いた顔で、広げて見ている。
「この生地…」
そう言うと、急に真剣な顔に変わる。
何か悪い物なのかと不安がよぎる。ドクドクと、動悸までしてきた。
何か買ってはいけない物だったのだろうか。
「…隣町の掛川で買ったんじゃない?」
生地をじっくりと見ながら、ゆっくりと尋ねられる。
やっぱり別のお店で買ったものを持ってくるなんて、常識外れだっただろうか。
幸子さんの言葉が、まるで尋問のように感じてしまう。
「掛川?ごめんなさい。お店の名前は覚えてないんですけど、呉服屋さんですかね。そこで買ったんです。買ったらダメな物でした?一緒に行ったお友達がよく行ってるお店だったから大丈夫かと…」
慌てて経緯を説明する。