第15章 岩柱
【実弥side】
跨いでいた体勢をやめ、手の拘束を解き、片手を引っ張りノブの体を起こす。そして、自分の気持ちを隠すかのように頬を摘まむ。
「えっと、痛いです。さっきから何で頬っぺたつねるんですか。できればもう少し優しくつねって貰えませんか?」
「それが、分かってねぇって言うんだよ。お前は本当何なんだよ」
ノブが言うこと一つひとつが、俺の欲を抉ってくる。
「え?何なんでしょうねぇ?やっぱり浦島太郎ですかねぇ?」
場違いな返答に、苛ついていた気持ちが萎えてくる。
おかしな返答をした罰ではないが、ギュッと頬を摘まみ、ゆっくりと手を離す。ノブに触れていて温かかった指先は、離れたと同時に冷えていき、それと共に気持ちも冷静さを取り戻す。
「…お前と話すのが、馬鹿らしくなってきた」
こいつと話していると、何故か振り回され、いつもの自分が分からなくなる。
「襲いたくなくなりました?残念です。じゃあ、今度は私が襲いましょうか?」
座った姿勢のまま、俺の近くに手を付き、ぐっと顔を近づけながら言う。やっぱりノブの距離感はおかしい。
覗き込まれた顔はまだ紅さが残っているが、ニヤリと笑いながらそんなことをサラっと口にする、その不釣り合いさに、また下半身がドクリとする。
「はァッ?!」
それを隠すかのように、やや声は大きくなる。
「一人でするんだったら、また言ってくださいよ。実弥さんのなら、いつでもご奉仕しますから。手でも口でもね」
体を起こしながら、そんな事を恥ずかしげもなく言う。真面目に相手をしていれば、せっかくスッキリしていた筈の体に、疲れが襲いかかる。
「もういい…さっさと出て行けッ!」
「はい。お邪魔しました」
それ以上は何も言うことなく、スッと立ち上がり部屋から出ていく。