第15章 岩柱
斉藤さんの姿が見えなくなってから、いつものようにお屋敷に入る。
「ただいま戻りました」
返事がないのは気にならなかったが、準備していた昼食がそのまま置いてあるのが目に入る。
昼もずいぶんと過ぎているのに、どうしたのだろう。
実弥さん部屋に目を向ければ、襖が閉まっているので部屋にいるのだろう。
一度自分の部屋に戻り、荷物の整理をしてから、洗濯物を取り入れる。天気が良かったので、もうしっかり乾いている。部屋でたためば、あっという間に時間は過ぎる。
隣の部屋を見るが、まだ襖は閉まったままだ。
「体調が悪いのかな」
ボソリと呟く。悲鳴嶼さんの所へ行く前の実弥さんの様子を思い出す。明らかにいつもと違い、おかしかった。あの時から調子が悪かったのだろうか。
たくさんの洗濯物と共に、実弥さんの部屋の前に立つ。
「実弥さん」
声をかけるが、全く返事はない。
「実弥さん、大丈夫ですか。実弥さ~ん」
何度か実弥さんと声をかけてみるが、全く反応はない。今までにこんなことはなく、少し不安になる。
前にみたいにただ寝ているだけならいいが、体調が悪くて寝込んでいるなら、話は別だ。このまま大丈夫かと気を揉むより、確認した方が早い。後で間違いなく、怒られるだろうけど。
二度目だからか、そこまでの緊張はない。
「実弥さん、開けますよ」
襖を開け部屋を見れば、布団に寝ている実弥さんが目に入る。
洗濯物はいつもの場所に置き、実弥さんの側までゆっくりと、音を立てないように歩いていく。
呼吸の乱れはないし、顔も赤くもない。きつそうにもしてないので、ひとまず安心だ。
膝をつき、横に座る。
「実弥さん」
声をかけるが、全く反応はない。かなり深く眠っているようだ。いつも昼には起きているのに、それだけ疲れがたまっていたのだろう。今日の実弥さんがおかしかったのはそれが原因かもしれない。
全く起きないので、まじまじと顔を眺める。
「やっぱりキレイな顔」
天使のような寝顔とはこのことだろう。推しフィルターがかかっているかもしれない、とも思うが、寝ている顔は眉間の皺もない。
「ふふっ」
他の人が見ることのない実弥さんの表情を見れた優越感から、笑みがこぼれる。