第15章 岩柱
町の外れからは、背負ってもらい、斉藤さんは走り出した。早いが、振動は山道の比ではない。
あまりの気持ちよさに、またうとうととしてしまったようだ。
「おいっ。ノブ、起きろ!」
「…ふえっ?」
「着いたぞ。ほら、下りろ。全く、何でこの状況でお前は寝れるんだよ」
ブツブツと言いながらも、ゆっくりと下ろしてくれる。何だかんだで斉藤さんは優しいのだ。
「すいません。気持ちよくて…いや、寝ないようにと頑張ってたんですよ。本当に。でも斉藤さんの安定感のある背中と絶妙な振動が、私の意識を奪いましたね」
「…変な解説するな。俺が悪いみたいじゃねぇか」
苦虫を噛み潰したような、渋い顔で睨み付けながら、斉藤さんは訴える。
「いや、全くそんなことはないです!本当にありがとうございました」
目の前で手をブンブンと振り、違うと一生懸命アピールし、話を変えるようにお礼を言う。
通じたのか通じてないのか分からないけど、斉藤さんはその事にはもう触れなかった。
「じゃあ、俺は帰るぞ。不死川さまにもよろしく伝えておいてくれ」
「はい。ありがとうございました。あ!後藤さんにもよろしくお伝え下さいね」
「…」
無言の斉藤さんは、眉間に皺が寄り、考え混んでいるようだ。
「ん?どうしました?」
「いや、後藤に伝えとく。あと、ノブ、次も何かあれば、俺に言えよ。来てやるから。分かったな」
眉間の皺はなくなったが、有無を言えない雰囲気だ。
「ん?そんなことできるんですか?じゃあ何かあったらお願いします」
「ったく、俺と後藤だったから、良かったけどな。流石に毎回毎回寝てたら、襲われるぞ」
「はい?そんな物好きはいませんよ。こんなおばちゃん、誰も相手にしませんって」
あまりに突拍子のない話に、笑いが込み上げる。
「いや、おばちゃんって…。お前はもう少し危機感を持てよ」
「危機感と言われましても。蜜璃ちゃんくらい可愛くて愛嬌があって、胸も大きければねぇ。私、こんな体型だし胸もないし、いやいや、そもそもおばちゃんだし…」
「…もういい。じゃあな」
私の言葉を遮るように言う。哀れむような顔で見られているのは気のせいか?
「はい。今日はありがとうございました」
そう言えば、微妙な顔をしたまま斉藤さんは走って帰っていった。