第15章 岩柱
「大丈夫か?」
いつものからかうような言い方ではなく、心配そうに声をかけられる。
「すみません。大丈夫です」
「本当か?気分、悪いだろう。顔色が悪いぞ」
顔色まで悪くなっていたのか。そりゃ心配するよなぁと、思う。これ以上心配かけちゃいかんなぁと思い、今日一番の笑顔で答える。
「はい。もう大丈夫です」
「ならいいが…無理するなよ」
そう答えた斉藤さんは、たぶん、納得はしてないだろう。私も答えることはできないから、聞かれても大丈夫としか、いいようがない。
でも、これ以上は詮索はしないと判断してくれた。それも斉藤さんの優しさだろう。
「ありがとうございます」
笑顔で答える。
顔に、態度に、出してはいけない。
何かあっても、何か考えていても、それを出してはいけない。
みんな、優しい。心配してくれる。
でも、私はそれに、答えることはできない。だから、心配をさせないように、振る舞わなければならないのだ。
そう思い、痛んだ気持ちに蓋をする。そしてゆっくりと胸の奥にしまい込んだ。
「さあ、食べ終わったなら、帰るぞ」
「はい。じゃあ、お蕎麦の代金を…」
「いらねえ。俺が払うから、お前はいい」
「えっ?そんなわけには…」
「いいんだよ。居候だろう。年齢的にも俺の方が上だし。気にせず奢られろ」
「斉藤さん。男前ですね!ありがとうございます。では遠慮なくご馳走になります」
そう言うと、斉藤さんは立ち上がり、親父さんに支払いを済ませる。
「親父さん、ご馳走さまでした。おいしかったです」
「ああ」
私も立ち上がり、厨房にいる親父さんにお礼を言う。返事は一言。やっぱり愛想はない。でも、それはそれでいい。
外に出れば、眩しい日差しが目に突き刺さる。
「ノブ、行くぞ」
すでに歩き始めていた斉藤さんが振り向きながら言う。
急いで斉藤さんに追い付き、改めてお礼を伝える。
「斉藤さん、ご馳走さまでした」
「おう。さぁ帰るぞ」
「はいっ!」
町の外れまで、また並んで歩き、他愛もない会話をしながら行ったのだった。